第4話 クラスの中の決議

翌日、朝のホームルームでみんなに私が考えた台本が配られた。

「はい、じゃあみんなこれ見て!昨日松田さんが考えてくれた劇の脚本のあらすじです」

全員に配られたそれはとてもきれいに作られていて台本としてみるととても見やすいものだった。

「すごい。あんなに汚かったメモ書きみたいなのをたった一晩でこんなにきれいにまとめるなんて」

私は呆然として配られたあらすじのきれいさに驚いた。私が思いつきでバラバラにしていたキーワードをきれいに一つの文章としてまとめあげていた。

「とりあえず、時間空けますのでみんな今日中にこれを読んでおいてください。放課後の時にどのお話でやりたいかアンケートをとります」

といいじゃあ、今日も一日頑張ろう。と締めくくった。


この学校の授業は異色だ。クラスの全員がある一定の授業以外全く違う授業をとるのだから。私は今日は英語、数学、世界史、現代文と続いてまた英語、古典と英語が一日に2回ある日だ。これが人によっては2回数学の時間があったり、2回体育の時間があったりするらしい。私にとって数学も体育も苦手だから敵でしかない。一日に何回もやる人達のことが信じられないと思っている。

世界史の時間、同じクラスの人に話しかけられた。

「あの、松田さん」

「えーっと」

「私、飯山って言います。飯山香織。一応同じクラスなんだけど」

「飯山さん?ごめん人の名前を覚えるのがあんまり得意じゃなくって。覚えといきます。そして何か御用ですか?」

「はい、朝のあらすじ読みました。面白かったです。特にあのロミオとジュリエットを改変したお話。普通に小説にでもできるのではないかと思いました」

「そうなんですか」

「ぜひ、あのお話でやりましょう」

ととても熱意のこもった目で提案してきた。

「でも、どれをするのかはクラスの投票だから」

「私、わかります。間違いなくこのお話でやりますよ。私の友達も良いって言ってました」

「そ、そう」

「これがどんな劇になるのか今も楽しみでしかたないです。脚本楽しみにしていますね」

と言われしまった。

さらに体育の時間でも

「お前松田だよな?女子の方はってああ、チームごとのバスケをしているのか、休憩中?」

と男の子から声をかけられた。

誰かわからずきょとんとしていると

「あーえっと。俺は黒田悠斗。今朝のあらすじ読んだぜ。お前めっちゃいい話かけるじゃんか」

と言った。

「あれ気に入ったぜ。あのお金持ちの息子と令嬢の話。あれが気に入った。あの話を劇にしたら間違いなく全校で一番の出し物だ。」

といい楽しみにしているからよ、つづきをと言って自分たちの番になったからかバスケットのコートへ走っていった。

古典の時間には前島君が来て

「松田、よかったぜ。楽しみにしてるからな」

とだけ言って自分の席に戻っていった。その後古典の授業中はずっと寝ていたようだった。

私が思うよりみんなの期待が勝手に膨らんでいるようでとても怖かった。

その放課後。その日の授業が終わればホームルームクラスに戻り翌日以降の連絡などを確認する。新しい連絡などがあれば付け加えられる。そんなクラスにあつまると彼が教壇に立った。

「じゃあ、朝言ったアンケートをとります。といっても今から伏せてもらって手をあげてもらうから1人1つ手をあげてね」

じゃあ伏せてねーというと

「1番目の人がいい人。はいおろしていいよ。じゃあ2個目のがいい人。はいおろして。じゃあ最後3個目のがいい人。はいありがとう」

というと全員が起き上がったようでそれを見回していた。

そして黒板にはとある文字が書かれていた。

「3つ目 39」

それは私以外全員がそのお話がいいと言っていたことだった。

「はい、では3個目のお話に決まりました。松田さんには申し訳ないのだけどこの土日の間に物語を書いてきてほしいです。そして月曜日に見せて欲しいです」

と言い一拍置くと

「できるかな、松田さん?」

とこっちを向いてきた。

私はできないと口にしかけた。でもそれだと何も変わらないと思った。だから

「うん、やる。できないかもだけどやるだけやってみるね」

と決意を口にしていた。

「はい。決まりました。じゃあある程度予想できることは今簡単に決めようか」

と役割分担を始めていった。

そこからクラスの雰囲気は一気に活気づき劇への期待感が高まっていた。

私はそのクラスの雰囲気になじめず一人机に向かい物語のストーリーを書いていた。

誰もここには近づいてこず一心不乱にノートに書いては消して、書いては消してを続けていた。そんなところに彼は声をかけてきた

「松田さん、大丈夫?」

「大丈夫じゃない。でももうやるしかないからやるよ」

「そっか、ありがとう。じゃあさできたら教えて欲しいから連絡先を教えてよ」

と急に言い出した。

普通の人にとっては急ではないかもしれないが私にとっては急だった。確かにいつかは物語を伝えないといけないし、今のところ伝える方法がない。私は台本にする能力はないから彼に頼らないと台本はできない。彼に早く伝えられたら月曜日から準備を始められる。準備が早ければ早いほど劇はいい。彼に物語を伝える方法として教え合うだけで特に深い意味はない。と自分に言い聞かせた。

「う、うん。いいよ。完成したらメッセージで送るね。それを台本にしてくれたらうれしいな」

といい連絡先を交換した。

しかし、私はまだ知らなかった。クラスでの彼との行いは、確実にクラスの中で軋轢を生んでいたことを。

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僕は存在しなかった ロッソジア @Rossojia_Ryusenji

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