第3話 走り出した物語

私は放課後。一人で図書館にこもっていた。

ほとんど強制的ではあったが脚本を書かないといけなくなり何も思い浮かばなかったのだ。

「はぁ」

思わず大きなため息をついていた。するとそれを聞いていたのか横から

「そんなに大きなため息をついてどうしたの?」

と声がした。驚いて振り向くとそこにはさおちゃんがいた。

さおちゃんは本名が三木沙織で最近先生になった人で、年が近く少し小さいこともあってみんながさおちゃん先生と言って慕っている。担当教科は国語だ。もちろん放課後の時間に図書館にいるのだから図書館の担当でもある。部活の顧問をしないことを引き換えに勝ち取ったようだ。

「あ、さおちゃん。ううん特にはないの。ただ面倒なことになって」

と言い事のあらましを説明した。すると、さおちゃんは

「いいじゃん。面白そう。それに松田さんが作る物語を私も読んでみたい」

と満面の笑みを浮かべて言った。私は不満な顔をしながら

「さおちゃんまで、そんなに簡単そうに言わないでよ」

と言った。しかしさおちゃんはまじめな顔に戻すと

「簡単じゃないことはよく知っているよ。私、高校生の時は文芸部だったんだ」

と言った。そして

「大学生でも続けたけどさ、あんまりうまくいかなくて締め切り何度も破ったし。なんなら小説家を目指して新人賞にも応募していたんだよ。」

と続けた。私は驚いていた。さおちゃんが物語を作っていたということよりも新人教師でありながらベテラン教師よりも教師らしいことを言っていることに。そして同時に自分の中のさおちゃんのイメージが少し変わっていくことに気づいた。そして、さおちゃんは最後に

「簡単じゃないことは知っているけど、私は松田さんの物語は面白くなると思うから松田さんの物語を作ることを頑張ってほしいな」

と言い優しく微笑んだ。そして

「何か困ったことがあれば相談してね」

と言うとこれから会議だからといい図書室を去っていった。

私がとても頼もしい味方を手に入れたと思いつつ期待にこたえられるか不安になった。でも改めてやりたいという気持ちが強くなり、やる気が沸き上がった。そして目の前にある何も書いていない紙にとりあえずと思いつたた設定を書き出し始めた。

思いついた設定は

 月には人と同じ形をした生物がいて一つの大国が築かれていた。そして、その大国のお姫様が城を抜け出し、地球に降り立ち一人の少年の前に現れる。そして、地球と月を巻き込む大事件に発展する。

 ロミオとジュリエットを大幅改変し、ロミオは現代での政治家の息子、ジュリエットは大企業の令嬢という設定で二人は愛のために世界を相手取って戦う。

という二つの設定だった。

しかし、この二つには大きな問題があると私は感じていた。それは圧倒的に時間が足りないということだ。もちろん、役者がセリフを覚えるということにもだが、舞台のセットを準備するということまでだ。明らかに時間が足りないと思った。どうすればいいか頭を抱えていると

「松田さん、大丈夫、頭痛いの?」

とある男の子が図書室のドアを開けて声をかけてきた。

 私はその声で誰だかわかった。忌々しいこの悩みごとの元凶、川崎君だ。私は笑顔で振り返りながら

「脚本のことでちょっと」

というと少し困った顔をして私に近づいて

「なにかあったの?」

と彼は聞いてきた。

私は少し意地悪をしようと思い

「すこしね、やっかいなことを言ってくれた人のせいでどうしたらいいのかわからなくてね」

というと彼は申し訳なさそうな顔をして

「本当にごめん、でも最終的に引き受けてくれてうれしかった」

と言ってきた。

 別に、よろこんで引き受けたわけじゃないし。と思いながらも少しうれしくなった自分がいた。そんなことを考えていると

「なににこまっているの?」

と彼は、私が設定を書いているノートを覗き込みながら聞いてきた。

 私は手元のノートを見て

「なんとなくおもしろいと思う設定は思いついたけど劇で今から間に合う自信がなくて」

と伝えると

「なんだかんだで乗り気なんだね」

と彼が言った。

私はその言葉に反論しようと顔をあげた。するとそこにはノートを覗き込んでいた彼の顔がすぐそばにあった。

私は驚いて思わず後ろに下がろうとした。しかし、椅子はしたが絨毯であったこともあり下がることなく、私は椅子ごと後ろに倒れそうになった。

バタン

と音が鳴った。私は衝撃と痛みに備えて思わず目をつぶっていたが一向に来なかった。目を開けると、彼が私の腕をつかんでいた。それは初めて会った人同じように助けてくれたのと同じだった。

私は驚いてしまい助けてもらったが椅子からが転げ落ちてしまった。

「大丈夫?」

と彼は尋ねてきた。私は飛び上がって

「大丈夫、大丈夫」

といい椅子を机から少し離した。

 私は顔がカアアッと赤くなっていることに自覚を持ちながら

「ごめんね、いつも迷惑かけて」

と彼に言った。

 「ううん、気にしないで」

というと彼は笑って私に手を振りながら、

「松田さんが無事ならいいよ」

と言った。

私はその顔にみとれながら何もなかったようなそぶりをして

「それにしてもどうしてここにいるの?部活動は大丈夫なの?」

と尋ねた。彼は笑顔を崩さず

「大丈夫だよ。今年の大会にはでないからクラスの出し物優先でいいってキャプテンが言ってくれさ。それに、松田さんが絶対に困ってるだろうから手助けしたいなって」

といい私のノートをまた覗き込んだ。

「ある程度の設定は決まっているんだね」

といった。私は

「うん、と言っても既存の話をリメイクする感じでしか思いつかなかったけどね」

といいあらすじを話した。

それは、すこし気にいっていた、ロミオとジュリエットの話を改変し。現代風に置き換えたラブコメディだ。ロミオとジュリエットは大企業の社長の息子、娘で親年の仲はあまりよくなかった。しかし、あるパーティで出会った二人はその場で恋に落ちる。しかし、親はそれに反対し喧嘩となる。二人は別々の異国へ留学させられる。しかし、二人の恋心は消えることなく半年後二人は親の目を盗んで再会する。

そして物語はヒロインのある行動で急転直下を迎える。というお話だ。

あらすじを聞いた彼は

「へーおもしろいね。いいと思うよ!じゃあこのノート少し借りてもいい?設定だけでもプリントにまとめてクラスのみんなに配りたいんだけど」

と言った。私はみんなに配らないといけないということを失念していたから

「えっ」

と思わず声に出していた。そのことに驚いて彼はあわてて

「大丈夫!パソコンを使ってきれいにしてみんなに配るから」

と言った。私は、みんなでやるならどうせ配るものだと思ったから

「ううん、みんなに配るのはいいけど、ちょっと待って汚いから読みやすいように他の紙に書き換えるから」

と言い鞄のなかからルーズリーフを取り出し書き上げていた設定を書き直した。

「ありがとう。あ、あらすじも必要だね。とりあえず、一度聞いた話を書き出すから間違えてないか後で確認してもらってもいい?」

そして彼は近くにあったペンで書き始めた。

そして閉館時間が近づいたころ

「よし、こんな感じかな」

といい私が読みやすいように紙をむけて

「こんな感じでいい?」

と尋ねてきた。一通り読んだ私は、問題ないと思い

「うん、大丈夫」

とだけ答えた。すると彼は笑顔になり

「よし、じゃあ明日、まとめてみんなに見せるね」

とだけ言うと帰る用意を始めた。そして、

「じゃあ、家に帰ってからやるから」

と言い「また明日」と付け加えて帰っていった。

私はその姿に魅入ってからしばらくして下校の放送がかかるまで動けなかった。

どこにも存在しなかった私に居場所をくれる人に出会ったと感じた。

そして私たちの物語は動き始めた。

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