読み応えのある、心揺さぶられる物語。

一人の人の生は、流れていく時の中では点でしかない。その点でしかない人の生が集まり、流れとなっていくときに歴史となる。それは、時にゆっくりと穏やかに。そして、時には全てを押し流す濁流のごとくに。

これは、とある王国の興亡という激流の歴史の中で生きる意味を模索しながら精いっぱいを生き抜いた人々の物語である。
作者が中世から近世ヨーロッパをモデルにしたという架空の王国が舞台ながら、まるで実在したかのようにその時の時代の雰囲気、また人々の生活が生き生きと描かれている。実際の世界が多くのものを包括し、それぞれがお互いに影響しあいながら進んでいるように、この物語も様々な出来事がからみあいながら進んでいく。それが物語の世界の幅と奥行き、そしてリアリティを与えているのだろう。

歴史の必然と時が満ちる、ということ。人の生きる意義。自分に残されている時間や運命がわかった時、人はどうやって生きていくのか、などなど。
この物語を読むときに、心に迫ってくるものは人それぞれだろう。

この物語の抱えるテーマは非常に重たく過酷なものなれど、一人ひとりの喜び、悲しみ、また葛藤と丁寧に描かれていく心理描写に、読み手はぐいぐいと物語の世界に引きこまれていく。

「それでも朝日は昇る」
この物語の題名でもあるこの言葉が作中にでてきた時、あなたの心に浮かぶ想いは。
希望か、それとも。

じっくりと、心揺さぶられるような物語を読みたい、と思っているあなたへ。
心をこめておすすめです。

その他のおすすめレビュー

かわのほとりさんの他のおすすめレビュー521