踏切のある通学路
上山流季
踏切のある通学路
ここは私の通学路だ。
夕方、私は道の縁石に座って、私の通学路を通る人たちをぼんやり眺めていた。
場所は住宅街、踏切の近く。
会社も学校も終わる時間。みんな家に帰っていく。
学生服の男の子。
よれによれたスーツのおじさん。
ネギの飛び出た買い物袋を提げたおばさん。
杖をついたおばあちゃん。
それから、私と同い年くらいのセーラー服の女の子。
みんな、私の目の前を通り過ぎる。
家に帰っていく。
と、人の流れを断つように、踏切がカン、カンと鳴り始めた。
みんな線路の前で止まる。もしくは、遮断機が下りてくるより先に線路を渡ってしまおうと、駆け抜けようと走る人もいた。
私はぼんやりそれを見ている。
コケてしまえ。
そう思ったと同時に、線路を走って抜けてしまおうとしていた男子学生が、つまづいて転んだ。
遮断機が、道と線路を別のものへと分けるように下がりきる。
線路の上にはヒザを擦りむいた男子学生がいた。
カン、カン、カン、カン。警報機が鳴っている。
電車はすぐに、やってきた。
大きな警笛。
しかし電車は通り過ぎていった。
警報機は鳴り止み、遮断機も上がる。
遮断機と遮断機の間には、線路が2つあった。
男子学生が転んだのは、奥の線路だった。
電車が通過したのは、手前の線路だった。
男子学生は、無事だった。
足を引きずるように帰っていく男子学生を見ながら、私は、チェッという気分だった。
あのまま、轢かれていればよかったのだ。
私は道行く人たちを眺め続ける。家に帰る人を眺め続ける。
もうすぐ夜だ。
でも、私は帰れない。
踏切で足を失くしてしまってから、私だけ家に、帰れない。
踏切のある通学路 上山流季 @kamiyama_4S
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます