無限ともとれるその設定の奥深さと、それを生かした世界観の構築に圧倒せよ

先ず。

【圧倒的世界観】

とても大切にされているのは世界観。

スチームパンクの水蒸気や配管が窺えるようなその緻密で機械的、とてもレトロな空気感で構成された世界。街並み、服装、乗り物、生活様式に至るまで、こだわりにこだわり抜いております。それ故に言語のチョイスなども難しく、堅苦しい言葉を選んでおりますが、それすらこだわっており、徹底的に、その世界観を大切にされておられます。

蒸気機関《スチームパンク》に錬成技術を掛け合わせ、独特に融合、昇華された技術により、作り出された人造乙女《オートマータ》中でも闘技場で闘う人造乙女の事を《コッペリア》と言い、コッペリア同士による、金銭を賭けた熾烈な決闘ゲーム――決闘遊戯《グランギニョール》が繰り広げられる。


【極上のダークファンタジー】
人の欲望、またはエゴ、愉悦、それに振り回される者たちにより、繰り広げられる群像劇。物語を展開し、色付けしている人物たちには、それぞれに深い背景があり、それぞれの思想、理念、そして感情に基づいて考え、動き、物語を紡いでおります。

また、コッペリアと呼ばれる闘技場の人造乙女たちにも、それぞれの想いがあり、感情があります。ただの玩具、人形などではございません。どこまでも精巧な人工物に心揺さぶられることになるでしょう。

【肉迫する異能力バトル】
それぞれのコッペリアにはタブレットと呼ばれる魂にも似たプログラム?的なものがあり、それに準じた戦闘スタイルがあります。

人造乙女とは言いながら、血《エーテル》も流し、タブレットが壊れたら、二度と同じ個体は作れません。即ち、そこに個性・アイデンティティ、ないしはオリジンと言うものが存在しているものと思われます。
これらの個性を活かすも殺すも、それを具現化する錬成技士《ピグマリオン》と呼ばれる者の腕にかかっており、彼女たちのポテンシャルを一番引き出せた者が、グランギニョールの覇者となり、最高の名誉を抱くことができるのです。

では、最高のコッペリアとは。強い事、それは当たり前。そうではない、聖女・グランマリーに捧げる究極の演舞であり、会場に集まった観衆、を最高潮へと誘い、可憐に闘技を舞い、勝ち続ける者を言うのです。つまりただ勝てば良い、という訳では無いのです。

その為に彼女たちは、闘技場で歌い、踊り、その命を輝かせ、そして華々しく散るのです。



私がレビューでここまで書き込むことはあまりありません。しかし、これだけ書いても、この作品の魅力を伝えられるものでもありません。

物語としては暗く、哀しい背景も在りますし、惨たらしい描写もあります。しかし、その全てに作者様の意図があり、無駄に残酷描写をしているものではないのです。この世界の醜さと、美しさと、命・活きると言う事の素晴らしさと、儚さを、かくも緻密に、鮮やかに描かれておられる作者様に敬意を評します。

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