全員が共通の幻覚を見て、見た通りの手触りを感じる。そんな世界

本来の人間の姿を視覚で捉えることのできなくなった世界観(文学的表現)の独特な美しさに目が離せません。

設定も興味深いのですが、言い回しにもセンスを感じます(個人的に、過去の九相図のシーンでの肉体と精神の見解や「夕日が彼の顔を…」のところがお気に入りです)
純文学を読みたい人におすすめです。
読み応えのある物語に満足すること間違いなしです。



物語の主人公は、全身がただれる少女。ただれているから、痛い。でもなんでこんな目に遭っているのか、薄々わかっています。
  痛いのではなく、絶望。
「知ってた」からの吐露に胸が苦しくなりました。
共通の幻覚に「重み」を感じました。

また、この物には「正しい人間」の姿をしている公君がいます。なぜ彼は変わっていないのか?
終盤の打ち明けた心情は、読んでいるこっちの口が苦くなります。なんとなくわかる部分もあれば、初めて知った感覚がストンと心に落ちてくることもあります。


世界はずっと前からいびつで、ようやく可視化できるようになった。
見えることで伝わることはあるけれど、それでより良い方向に進んでいるとは思えない。
優しさが足りないから?
自分のことで手一杯だから?