第4話「Girl's bait bait―少女の撒き餌―」

「さて、仕事を探そうにもなぁー」

 政府の役人であった女性、名前は”ミリアさん”というらしいがその人となぜかにやけた顔つきのDr.カルルが部屋から出て行った後。カオルは再びベッドでくつろぎながら自身の状況を再確認していた。

 この世界でのカオルの身分証は簡単なものである。


 名前”カオル・アカサキ” 性別”女” 年齢”17歳” 種族”人類”  

 特記事項:事故により全身義体である


「なんだよ人類って、それ以外が居るのかよ。てか年齢17歳っていうのも体と会ってないだろ」

 最初の確認時に年齢を確認され、咄嗟に17歳と答えてしまったがゆえの事であったがカオルはすでに忘れている。その時は永遠の17歳などと女の子になって多少どころではなく浮かれていたので仕方がないのだが。

 文句を言いながらでもにやけ顔が戻らないカオルは残念な部類とも言える。

「さて、そんなこと言ってないで仕事さがすかー」

 端末に表示されているのは先程までと違い、仕事斡旋の一覧表である。

 この時代においての物理的な拠点であるハローワークは存在せず、ネットワーク上に存在する。掲示板のように誰でも見ることが出来るが、そこに登録することが出来るのは政府の厳しい審査がある。

 海賊版の斡旋サイトも横行しているが、政府主導のサイトにはハズレが少ない、と知ったカオルは次々と流し読みしていく。

「日本語翻訳自動でしてくれて便利だなぁー」

 この時代の主要言語は英語であり、それ以外の言語はほぼ使われていない。

 これは宇宙進出時に統一語として英語が選ばれたからであり、そのほかの言語は絶滅まではしていないが、博物館所有レベルと言えよう。

「おっ、これなんかよさそうだなぁー」

 カオルが見つけたのは傭兵募集の文字である。

 募集人数は記載されていないが、宇宙に蔓延る海賊から商船等を護衛するのが主な仕事としている傭兵業。

「アドミラルカンパニーか、でかい企業みたいだなぁ」

 募集のサイトに飛んでみるとそこには男の子が好みそうな銃火器やアーマースーツに身を包んだ傭兵たちの姿が載っている。その中でも一際目を引くのが巨大な人型兵器である。

「わーお、ガン〇ムまで出来てるとか流石だな未来よ」

 流石に全高18メートルまではないが、10メートルほどの高さで人が乗り込み戦う兵器である。有重力圏から無重力圏、果ては真空である宇宙空間まで対応しており、兵器としてだけでなく重量物や巨大な物を組み立てる際などに作業アーマーとしても利用されている汎用兵器である。

「まー男たるもの一度はガ〇ダムに乗らないといけないよな」

 そう呟くとカオルは部屋から飛び出すのだった。


 昔から思い立ったら即行動タイプの人間であり、その為社会人になってもろくに貯金できず、親に小言を言われていたカオル。

 用意されていた服から適当に見繕って着たカオルは周囲の視線もなんのその、人々がまばらに行き交うステーション内を歩き回る。

 カオルが居るステーションは築200年を超えた古いものである。

 ステーションの総床面積は4平方キロメートルを超え、複数の居住区や行政区、港区など細かにブロック分けされている。

 幾度にも及ぶ増改築が行われ、政府ですら全貌を把握しきれていない場所もあり、スラムなどと呼ばれている。その理由も至極単純であり、警備が行き届かない為違法滞在者が後を絶たない区画だからだ。

 そんな区画にカオルは居た。

「あれ?迷ったかな?」

 カオルは方向音痴ではない。それは今まで生きてきた年数で迷子になった記憶はなく、人からも言われてた記憶がないからである。

 しかしながら遠く未来に来てしまい、且つ初めて外出したステーション。それも地図など持たず、気の向くまま歩いていると迷子になるのは必然と言えよう。

 そして迷子になっているのがスラムと呼ばれている区画であることからもその必然性は高まるものである。

 さて、そんな区画で迷子になるとどうなるのか。子供でも分かる問いであろう。しょうがなく、ヒントとして今カオルは14歳ほどの女の子の姿をしている。それも傍から見ると非常に可愛い服装で、だ。

「よう、嬢ちゃん」

 すでに撒き餌につられて出てきた魚が一匹。いや、3匹居るらしい。

「迷子かな?」

「ほうほう可哀想になぁー」

 カオルという餌に食いついたのは美味しそうな魚、などではなく厳つい男たちであるのは誰もが理解できよう。

「おにーさんが連れて行ってあげようか?」

 流石にここまでくれば鈍いカオルでも理解出来る。逆に言えば、来ないと気づかないカオルは異常ともいえるのであるが。まあ、の境遇を考えれば、多少は仕方がないと言える。しかし現実はそうやさしくはないのだ。

「あー、あのう」

 事、すなわち演技であるが、カオルにとって女の子を演じる、というのはそう難しくなかった。

「ご、ごめんなさい。私迷子になっちゃって・・・ここってどこですか?」

 身近に3人もの女性、カオルに言わせたら女の子じゃない、と言い張るだろうが、そう言った環境で育ってきたからこそである。伊達に女姉妹の中で育ってきたのではない。

 フリルの着いた白を基調とした上に短いホットパンツ然としたズボン。白い足の上には膝上まであるソックスを着用しているカオル。そんな女の子が女に飢えている男に見上げる様に、そして瞳をさせて尋ねるなど、結果は決まったも同然だろう。

「へへっ、そうかい迷子かい。ならお兄さんが分かるところまで連れて行ってあげよう」

 そう言うとカオルを取り囲むように残りの二人が後ろに付き、残りの一人が先導する。形だけだと護衛対象を守る警護であるが、現実を見ると篭に入れられた哀れな小鳥である。

 そんな小鳥を遠目に見つつも誰も何もしようとしないのはこの場所で日頃からこのような事が起きていることが容易に想像できるだろう。

「さあ、こっちだよ」

 そう言って4人は薄暗い路地に消えて行った。





 

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