第8話「Mercenary apprentice girl―傭兵見習いの少女―」
「はい、次ね」
高度に発達した科学技術の恩恵により省スペース化した艦橋で女性の声が響き渡る。
声を向けられているのは絶賛操縦中の1人の少女。見た目は13,4歳ほどであり、小柄でまだ女性というには早く、しかしながらその途中にある少女。
「9C-34Q-V4ポイントをスキャンしたら次のエリアに行くわよ」
船長であり、傭兵であるミリアの戦闘指揮の元、次々と下される命令に対応するのは傭兵見習いであるカオルである。
電撃的な出会いから数日、ミリアから傭兵のイロハを学びながら日々過ごしているカオルの1日は長い。
起床時間は決まっていないが規則的に寝起きするミリアに合わせているため早い。
標準時で6時には必ず起床し、身だしなみを整えて朝食を摂ると通常業務へと取り掛かる。傭兵の通常業務というとピンと来ないかもしれないが一概に仕事である。
傭兵はその職業柄仕事をしないと生きていけない。まあ、一般的にそうではあるのだが自営業以上に危険を伴う仕事が大多数を占め、比較的安全とは程遠い環境にて仕事を行うのが傭兵だ。
もちろん傭兵と言っても一概に戦闘だけではない。
宇宙船を所持している宇宙傭兵はその船を生かして輸送業務やノウハウを活かした教育など多岐に渡る仕事があるのだ。そのような戦闘以外の仕事を通常業務と呼称しているに過ぎない。
ミリアの所持する宇宙船“カルフラム”は最近大規模な改修を行ったばかりであり、それらに莫大な費用を要していた。そのため現在ミリア傭兵団は金欠の真っ只中であり、簡単に言うと仕事に追われていた。
「それにしてもこんな仕事もやるんですか?傭兵である私達が・・・」
現在カオルが文句を言いながらもこなしている仕事は莫大なデータの解析である。
依頼元は小さな宇宙ゴミ掃除屋。通称“デブリ屋”である。
人類が宇宙に進出し始めた頃からの問題である宇宙ゴミ。日に日に増えるゴミを痒い修する仕事は非常に大切なものである。しかしながら技術が発達し、基本的なデブリは小型レーザーで対処できるためその需要は低下している。しかしながらステーションなど巨大な建造物には対処できる能力の上限があるため、宙域を定期的に掃除する必要があるのだ。
しかしながら今の時代では底辺とも言えるそのような仕事を好んでする者などおらず、必然的に小さな弱小企業に回ってくるのだ。
だが悲しいかな、そのような小さな企業では惑星全土を覆うだけの宙域でデブリの動きを計算する演算装置がない。それほどのスペックを持ち合わせているのは攻めて中企業、それも上位という世知辛い世の中である。
そんな詰み状況で企業が頼るのが傭兵である。
一気に計算することはできなくても低スペックな演算装置でも数をこなせば算出が可能である。要は昔ながらの人海戦術と言えよう。
そんな背景があり、非常に面倒くさく地味な仕事を片付けているカオルは非常に不機嫌と言える。
カオルが望んでいた傭兵業は宇宙を飛び回り、切った張ったの戦場である。
しかしながらいつの世も世の中とは世知辛いものである。
「これで324個目・・・」
宇宙船に乗っている演算装置は大きく分けて3種類ある。
省人化を目指し導入された独立型の人工頭脳を持ち最悪責任者1人でも船を運用することのできる量子演算装置。
物理運動計算に特化し、操作等は基本的に人間の手で行う補助演算装置。
計算のみを代行し、その途中過程等を全て人の手で行う演算装置。
上から順に値段は極端に下がっていくのだが、現在の宇宙船を運用するにあたっては3番目があれば基本的に問題ないのだ。
かく言うミリアの船“カルフラム”に最近まで搭載されていたのも3番目である。
しかしながら大改修を行うことで2番目と3番目の間というなかなかのスペックの演算装置を投入した事により船の運用が非常にスムーズになったのだ。
簡単に言うと4人で動かしていた船を1人でも動かせるくらいには演算装置のスペックが上がったのだ。
「なんで新しい演算装置使えないんですかー?」
通常であれば人工頭脳に任せれば数秒で完了する仕事をカオルが四苦八苦しながら行っているのか。それは、
「だってフルで使うとエネルギーバカ喰いするのよこの子は・・・」
演算能力にはそれ相応の対価が必要である。すなわち電力であり、エネルギーである。
現在ステーションにて停泊中のカルフラムは自身の主機である“反応炉”はメンテナンス中であり再稼働まで数日を必要としている。これはもちろん新調した演算装置と同時に購入したものであり、出力が今までの数十倍の代物である。
だが悲しいかな、そのメンテナンスが終わるまでエネルギーはステーションからの供給であり、使用量に応じてお金を払う必要があるのだ。そのためロールアウトしたばかりなのに火すら入れてもらえない哀れな人工頭脳(笑)になっているのだ。
重量級の漬物石だ、とは話を聞いた時のカオルの言葉である。
「フルで使うと明日まで停泊できなくなるわよ?」
カルフラムは宇宙船の中でも中級と言える500メートル級の宇宙船である。
数ある宇宙船の中では小さいな方であるが、個人所有船とするとそう小さなものでもない。基本的には1000メートル級以上は軍か企業が所有しているのだ。そもそも運用費を個人でまかなえるほど維持費が安いものではないのだ。
エンジンが使えないため出航できない、主機が入らない為にメインシステムが使えない、すなわち出航できない。そして出航できない=傭兵のメインの仕事が出来ない。
最悪の悪循環である。金欠であるのもそれに拍車を、いやむしろそれが主たる原因であるのだが。
「最近よく思うんだけど、ミリアってお金の使い方なってないよね」
後先考えずにお金を使う師匠に辟易としたのはここ数日で両手では数え切れないほどに達している。すでにお金の管理をしているカオルは家計が火の車であることを重々承知しているからこそこんな仕事をしているのだ。
そう、渋々と。
仕方がなく。
やりたいわけではない仕事を。
「何するにもまずはお金・・・。やはり全ては金、か」
この世界に来てわずか10日。どこか達観した少女だった。
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