第2話「Shouting girl―叫ぶ少女―」

「2000年も盛大に寝過ごしました、とな・・・」

 部屋に現れた男、Dr.カルルという名らしいが、そのドクターから聞いた話ではどうやらカオルにある記憶から2000年ほどの誤差があるらしい。

「と言うかそもそも異世界の可能性もあるな」

 10年20年ならば近未来程度で済み、映画などでよくあるコールドスリープで寝てましたなどと無理やり説明づけることも可能である。と、少なくともカオルは思っている。

「でも2000年は流石にもう異世界だろ。そもそも文明進化しすぎて跡形もないだろ」

 カオルが居た時代から2000年前など紀元前に近い。未来から過去ならばその記録はある程度追えるだろう。だが未来は不可能である。

「さて、少し整理しようか」

 そう呟いたカオルはベッドに倒れ込む。

 先程まで部屋に居たDr.カルルの話は時代の話だけではなかった。

 カオルの現在の体の事である。


 カオルが発見されたのはほとんど偶然に近いような状況下だったらしい。

 西暦2400年頃に製造されたの宇宙船”サキガケ”。その船内でカオルは見つかった。

 現在では殆ど使用される事のない技術であるコールドスリープ。そのカプセルに入った状況でカオルは発見されたのだ。

 少なくともカオルにはコールドスリープに入った覚えなどは無いが、そうだったらしい。

 らしい、というのもその発見された時、宇宙船にデブリが衝突し、船殻を歪めカオルが寝ていたカプセルを潰してしまったのだ。その事によって救難信号が自動的に発信され、発見に至ったのは皮肉と言えるだろう。

 そんな状況で救出されたカオルの体は原形を留めていなかった。だが辛うじて覚醒前であり、コールドスリープのカプセル内にあるゲルのおかげで辛うじて死亡していなかったカオルは救命処置を受ける。

 この受けた救命処置が原因だった。カオルの現状の体のである。

 医療分野というモノは軍事技術とは平行に発展してきた。それにより事故等による即死を除けば、高確率で蘇生可能であり、且つ短い期間で以前の生活レベルまで戻ることが出来る。

 だがそんな高度に発達した医療技術をもってしても原形を留めない程破壊されたカオルの体を蘇生するのは困難を極めたのだ。

 医療カプセルに入れてもここまで損傷が酷いと意味がなく、また外科的手術をもってしても難しい。それも軍艦ではあるが医療艦でない艦である。できることはほとんどないと思われた。

 だがそこで現れたDr.カルルの言葉によって状況が急変した。

「ドクターよ、お前が元凶かぁ!」

 そう、悲しいやら嬉しいやら、カオルの体は生身の人間の肉体ではない。人造の肉体である。

 Dr.カルルの説明によれば偶然その艦の目的地に向けて現在のカオルの義体を運んでいたらしく、奇跡的に無事だった脳機能を移植したことで一命をとりとめたらしい。

 ちなみにその時の元の肉体も女だったらしい。だからこそ少女の義体なのだが。

「そもそも義体って攻〇機動隊かよ」

 カオルが貰った義体はほとんど人間と変わらないらしく、凄く便利らしい。

 らしいというのは説明を受けただけであり、カオル自身がまだ実感していないからである。

 その便利な点と言えば、人間と同じように食事等はとることが出来、味覚も変わらない。これはカオルもすでに経験済みである。

 その他にも体からの老廃物がほぼ出ない事があげられる。ほぼというのは体への吸収効率が非常によく、排泄物の量が少ないのだ。後は汗を掻かない事や運動能力が高い事があげられる。

「まあ、あのメスゴリラにはなりたくはないな。せっかく可愛いんだし」

 そう、カオルの義体とにかく可愛いのだ。カオル基準では現在トップである。

 輝く白銀の長い髪に整った顔立ち。身長は145センチと小さく、それに従って胸部も手で隠れてしまう大きさ。体つきは華奢という言葉が張り付いている様に細く、しかしながら病的な細さではない。

 さながら少女特有と言うか、年齢相応と言えるだろう。

「この義体の外見年齢が14歳、にしては小さいな」

 カオルの感覚からすると10歳と少し、と言えるくらいの年齢だろうと思っていたのだが、少しばかり発育が悪いようだ。義体だが。

「まっ、女性特有の悩みもないようだし、女の子初心者の俺にとっては楽できそうだな」

 人工的に調整された肉体である義体。しかしながらそれは機械人体サイボーグとは違いほとんど人間の肉体と変わりがない。男性型であるならば男性機能も備わっており、移された脳データより遺伝子を復元、つまりは子供も残すことが出来るのだ。

 もちろん女性型も大人型であれば子供を妊娠することも可能である。しかしながらカオルが現在しよしている義体の外見年齢は14歳。義体という肉体の性質上成長はしない為、元からそう言う機能が備わっていない限り、不可能である。

 つまるところ月のモノがないといいうのはそう言う事である。

「さてさて、そろそろ今後の方針を決めてかないとな」

 必然なのかは判らないが、この世界に来てしまったのはどうしようもない事実である。それを今現在も認めれない程カオルは子供ではない。臨機応変、カオル自身あまり好きではない言葉だが社会人になって嫌というほど言われてきた言葉でもある。

 つまるところ順応性が高くないと仕事も進まないのだ。1年目2年目の新人にとって会社の中は知らない事に満ち溢れている。まあ夢に満ち溢れているのはごく少数であるが。

「よし、この世界でいっぱい楽しむぞぉ!おっー!」

 カオルはポジティブな思考らしい。頭が軽いとも言えるかもしれないが。

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