第1章『New World Residents―新たな世界の住人達―』
「Prologue―プロローグ―」
人類が宇宙へと進出してから2千年。
いくつもの惑星をテラフォーミングし、その数十倍の数にも及ぶコロニーを建設した人類の人口は数千億人にも上る。
それを成しえたのはひとえにハイパーゲートシステムの恩恵が最も大きいだろう。 通常航行であれば数十年とかかる道のりでさえゲートを使う事で数時間で到達可能になるこの装置は人類に莫大なる恩恵を与えた。
ゲート開通の記念としてそれまで使われてきた西暦の幕が2532年で降り、統一歴が開始された瞬間である。
「これは・・・」
人類発祥の地、地球。そこから遥か1万2000光年離れたとある恒星系に一隻の船が居た。
「艦長!救難信号を受信しました!」
宇宙船の建造技術はすでに人工重力発生装置を完成させるに至り、ハイパーゲートシステムも過去の産物となった現在。中型船と呼ばれる全長500メートルから200メートルクラスの船でも単独でワープできるシステムが確立されていた。
しかしながら幾重もの安全装置があろうと技術が確立していようと事故は発生するものである。
ラルダ星系主星ラルダへ物資輸送の途中であった地球連邦所属艦”カザール”は微弱ではあるが救難信号を受信した。
「こんな宙域でか?」
レーダー観測員からの声に疑問を覚える艦長。
現在カザールが居る宙域は目的地であるラルダまであと7光年であり、一回ワープすれば到達する宙域である。
このルートはいつも使用しているルートであり、ラルダへ向かう者は必ずと言っていいほど通るルートである。
軍艦もよく通るため、宇宙海賊の出現も極端に少なく事故の確率も相当に低いルートなのだ。
もちろん事故は起こる。しかしながら現在の宇宙船であれば救難信号はこんな限定されたエリアにしか届かないようなものではない。数十光年離れた宙域まで余裕で届くようにされているのだ。
しかし先ほど発見された救難信号は数万キロほどしか届かない程微弱な物である。
「よく見つけたな」
艦を急速回頭させながら艦長は観測員に話しかける。
「ワープ直後だったのでシステム確認のためにセンサーチェックしている時に拾いました。それにしてもこの信号レベルが低すぎやしませんかね?」
「ああ、これだけ低いものは今まで見たことが無い」
救難信号のシステムが開発されたのは宇宙進出してすぐの頃である。
それから約2000年、発信電波レベルなど様々な改良が行われたが信号は同じである。これは宇宙船の寿命が数百年と長い事から今まで変えられずに続いている為だ。
「艦長、発信源を発見しました。光学カメラにて補足。メインスクリーンに映します」
艦橋要員の一人が救難信号の発信源をカメラでとらえた。
「あれは・・・船か?」
誰もが沈黙する中、唯一口を開いたのは艦橋で一人だけ服が違う男。
「ドクター、私も判らんよ。あんな形の宇宙船など見たことが無い」
メインスクリーンに映った宇宙船。それは現在主力として使用されている宇宙船の形とはかけ離れており、誰もがあれが船であると認識できないものであった。
「・・・船籍照合・・・・っお?」
「なんだ、はやく報告せんか!」
スキャンを行っていた観測要員の一人が素っ頓狂な声をあげたことに艦長は眉を潜めながら続きを促す。
「も、申し訳ありません。照合に時間が掛かった理由が判明いたしまして・・・」
「いいから、はやく報告せんか」
「はっ、船名は”サキガケ”建造年は統一歴マイナス152年です」
その報告に艦橋にいたすべての者達が頭に疑問を浮かべた。
「観測員、もう一度復唱せよ」
素早く反応したのは艦長の斜め後ろに立つ副長である。
「はっ、船名は”サキガケ”建造年は統一歴マイナス152年です」
「1500年も前の船だと!?」
「はっ、間違いありません。とても古い船であった為検索に手間取りました」
通常の船籍照合は艦のメインデータベースに記録されている数千億にも上る膨大なデータから抽出される。量子演算能力により僅かな時間で完了してしまうそれが今回に限って終わらなかったのだ。
その為、通常は独立しているサブデータベースに接続し、再検索を掛けたことで報告が遅れてしまったのだ。
「艦長、恐らく間違いないだろう」
そう言ってドクターと呼ばれた男が指さす先には拡大された宇宙船の姿があり、その船体に描かれている船名が見えていた。
「サキガケ・・・・あれは古い文字でカタカナだよ。ワシも数十年前に一度見たことがある」
統一歴になり、人類の言語が一つに統一された現在において多言語はすでにデータベースにもないものも多く存在する。
そんな古い言語を過去に偶然見たことがあったドクターは端末にすぐ検索を掛け、思いだしたのだ。
「なぜまだハイパーゲートもない時代の船がこんなところに・・・・」
誰もが抱く疑問を呟く艦長。
しかし観測員による次の報告で更に驚くことになる。
「艦長、船内に微弱な生命反応あります・・・」
「なっ!」
その報告により慌ただしく救助の準備が始まるカザールの中で一人の男が呟く。
「歴史的発見かもしれんな」
そのドクターと呼ばれた男の視線は緊急発進した小型艇の先、古い宇宙船へと向けられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます