第1話「Awakening girl―目覚めの少女―」
目を開けた時必ず一度は呟いてみたいセリフ、”知らない天井だ”
しかしながら現実にその状況にあった場合、その言葉を咄嗟に出せるほどに寝起きで頭が回るのだろうか。答えは否である。
「・・・・どこだ?」
目を覚ました時知らない場所に居た、などと理解してしまったのなら基本的にはパニックになるに違いない。だがそうならない場合でも多少は混乱するだろう。今目を覚ました者もそれと同じだった。
自身の最後の記憶を辿れば自宅でゲームをしていた記憶。
得意であり、好きなSFゲームであり艦隊戦が目玉であるFPS系のゲームである。
よくゲームをする身であっても寝落ちなどは一度も経験したことが無いが、無類のゲーマーであると自負できる程には戦績が良かった。
「ここは・・・?」
起き上ると同時に挙げた声に違和感を覚える。高いのだ、異性であり日常的には聞くことが無かった女性、女の子の声にも聞こえる。
「え?」
そして自身の異変は声だけではなかった。
起き上る時に視界に入ったからだ。手や腕も自身の記憶してるモノと違い、細く色白である。そして一番違和感を感じたのが胸部のふくらみである。
「は?」
目が覚めたら女の子になっていました、なんて少年がよく読んでいた小説であることだ。フィクション限定ではあるが。
「え、ちょ・・」
自他問わずオタクと言える少年、いやすでに年齢的に言えば青年だろう”
普通であればもっと混乱やパニックに陥るであろう現状況において彼が比較的落ち着いているのは趣味が大きく関わっているであろう。
24歳になり、社会人2年目を順調に歩んでいたカオルはオタクだ。まあ、世間的に見ればかなり重度であることは疑いようがないほどにはオタクであった。
ある程度オープンでありながらも世間体を気にするような年齢であり、社会人としての立場等もあり外に向かって自身がオタクである、などと言いふらすことはなかったがアニメや漫画が好きだった。
そしてそんなカオルが最近嵌っていた小説に一つに異世界転移/転生があった。
そのジャンルで数ある小説を読みふけっていたカオルにとって現状を現実と受け入れるにはそう時間を必要としなかったようだ。
「現実かよ・・・」
まあ適応能力というのは人間だれしも持ち合わせている物であるが、中でもカオルは高いと言える。だってそうだろう、3ヶ月おきに新たなアニメを見て・ハマり・のめり込むのだから。
「ま、いいか。それにしても女の子になるとは・・・」
ある意味男の夢の一つかな、と考えていると部屋の唯一の出入り口であろう場所が開いた。
「お目覚めかい?眠り姫よ・・・」
身長は男であったカオルの175センチよりも少し高いくらいであろうか。体つきはいたって普通であるが、頭髪には白髪が隠れており年齢はい意外と高齢なのかもしれないと思うカオル。
カオルが勤めていた会社の上司も今部屋に入って来た男くらいに白髪が混じっていたのをふと思い出した。
「ここはどこですか?」
自身で出したとは思えない高く、透き通るような声に若干戸惑いながらもカオルは男に尋ねた。部屋に入って来た、という事は少なくともカオルよりは現状を知っているはずである。
「うん、意識もハッキリしているね。よかった、拒絶反応があると困るからね」
男の口調からカオルは自信が昏倒していた事をハッキリと認識した。しかしながらなぜそんな事が起こったのか、原因が分からない。
「えっと、いったい何があったんですか?」
自身のこういった状況ではなるべく喋らせる。相手から情報をもらわない事には何も進まないし、何も判断することが出来ないのだから。
「うーむ、どこから説明したらいいか。すまないがこちらからいくつか質問させてもらってもいいかい?」
早速活行き詰まった。
「ああ、離したくない事は離さなくてもいいからね」
親しみやすいように笑顔を向けているのか。しかしながらカオルには目の前に居る男に不思議と危険は感じなかった。人がよさそうな好々爺である。
「はい」
ありがとう、と短く返事を返した男はカオルの寝るベッドの傍に置いてあった椅子を手繰り寄せ、座った。ベッドから2メートル程離れているのはカオルを気遣っての事か、はたまた別の理由かは判らない。
「さて、では一つ目の質問だよ。君の記憶にある中で最後で構わないが、その年月日を教えてくれないか?」
何かの精神診断だろうか。確かに短い間でも昏睡状態だったのならばそんなテストをされても仕方がないだろう。
「えー、2019年の5月3日だと思いますけど・・・」
確かに今が何年の何日であるかは知りたい。もしかすると最初に思った通りの展開である可能性がある。
「うん。ああ、念のためだけど、2019年とは西暦の事で間違いないかな?」
男の確認に何を当たり前な事を、と頷くことで返事としたカオル。
「やはりそうか。しかも2019年と来たか・・・」
男はある意味納得したように頷く。だがそれだけではカオルにはなにも理解できない。
「今日って何年の何日なんですか?」
気になって当たり前である。昏睡と聞けば長期間と考えてしまう。
「ああ、それを教えないといけないね」
ゆっくりと呟いた男は先程までと違い鋭くなった眼光を困惑気味であるカオルへと向けた。
「今は統一歴1566年1月28日だよ」
「とういつれき?」
「ああ、統一歴は西暦の後のものでね、西暦に換算すると4098年だね」
人類はいつの間にか2000年も寝ると性別が変わるらしいとカオルは新たに見した新事実を頭に刻み込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます