第152話. 新しい日常

さて、結局どうなったかというとだ。


私のことは今後も秘匿され、表も裏も特に変化しないことと決まった。

私がそれを望んだというよりは、政治的な判断に近い。

自分で言うのもなんだが、私は魔族側の重要人物であるミリア師匠と最重要人物である皇帝シスと縁を結んでいる。

その人間がゼルバギウス家の関係者であると言うのは、あまりよろしくない。

具体的には、魔族としては大陸の人間全体と付き合いたいときに、ゼルバギウス家とのつながりが大きくなることはある程度あたりまえにせよ、度が過ぎるのはよろしくないと言うことだ。

と、言う主張を師匠が行ったことで、ゼルバギウス家当主はうなづくことを選択した。


今後も私はゼルバギウス家にとって、冒険者のルークであり続けることになったのだ。

そのことにホッとしている心境が、私の今までの人生の答えなのかもしれないな。


その後私達は改めて師匠の魔法を使い引き渡された者たちを連れ、カダスへと戻る。

「じゃあ、後は頼むよ。」

という師匠の言葉に、

「かしこまりました。」

と答えるのはガストンさんだ。

覚えているだろうか。

カダスにて門番をしているオーガの男性だ。

私が初めて会った魔族でもある。


彼は門番でもあるが、同時にこのカダスの運営責任者の1人でもある。

彼からこの町の町長に話が伝わり、今回連れてきた人間たちの今後が決まるのだろう。

ちなみに町長は人間の女性で、品の良い初老の女性だった。メイニムという名前だったか。

初めてお会いした時は、なぜこのような女性が、このような特殊な町を取りまとめるているのかと疑問が浮かんだが。

話をしてみて分かった。

一言でいえば彼女は人を使うのがうまい人間なのだ。

頼まれると断れないというべきか。

その経歴から荒くれ者の多いこの町の住人も、彼女から頼まれれば、嫌な顔もせず従っている。

私がいうのはなんなのだが、魔法のようにさえ感じる力だった。



こうしてやることを終えた私達は、また日常へと戻っていく。

最近は、修行の成果も出てきたことを実感している。

例のゼルバギウス家当主。まあ、父との対峙にて素顔を晒した時もそうだったが、攻撃に関しても、いつぞや見せてくれたシス姉には劣るが、なかなかにものになってきたと自負している。

気づけば、1人でも大森林深層の魔物たちを狩ることができるようになっていた。

かつて、ユニたちと連携を駆使して死に物狂いで相手していた魔物たちを、気付かれる前に魔法で狩れるようになったというのは、なるほど、成長を実感できるというものだ。


また、そんな日常にも変化はある。

あれから。

つまり、先日のゼルバギウス家来訪以降、時折ゼルバギウス家に赴く機会が増えている。

当たり前だが、私が望んでのことではなく、師匠から言われてのことだ。

そこで何をすると言えば、騎士に混じり稽古をさせてもらっている。

何故と思い師匠に声をかければ、顔つなぎのようなものだと教えられた。

実際、師匠の弟子としてみられている私は仮面に関してもじきに慣れてもらい、今では有意義な訓練を経験させてもらっている。

やはり体を動かすにせよ、色々な人との実戦こそ身につくというものだ。

顔つなぎというのも、将来的な仕事の引き継ぎを見越してかと思い、そういうが、

「まあ、そんなところだね。」

と煮えきらない師匠の態度は気にはなるが、きっと悪いようにはならないだろう。

幸いと言っては薄情なのだろうが当主に会うことはなく、私としては既にここへ来ることに緊張はしなくなってきた。



カダス周囲での狩りと、魔法、武術の訓練。

それらを日課として日々を過ごしていたある日のこと。

私は、レイ・ギ・ゼルバギウスが留学を早めに切り上げ戻ってきたということを知るのだった。

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吐き気を催す英雄の冒険譚 おかか貯金箱 @okakatyokinnbako

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