第151話 シンデレラ
とりあえず、今の状況を整理しよう。
今私たちは、テーブルを挟みこちらに私とミリア師匠。
向こうに現ゼルバギウス家当主ジルグ・ギ・ゼルバギウスが座っている。
そして先程、当主から私がゼルバギウス家の、つまり自分の子どもであることを確信しており戻ってこないかと言われ、私がそれを断った。
のだが。
まあ、それではい終わりといかないのは当たり前のことだろう。
というのも、師匠の口から、
私が捨て子であったこと。
それを師匠がエルバギウス大森林で拾い今まで育ててきたことを告げ、
「状況から考えて、確かにルークがゼルバギウス家の人間だった可能性はかなり高いだろうね。」
などと発言がある。
案の定、当主は納得しかねると言う顔をする。私からすれば納得しようがするまいが、と言う問題なのだが。
当主が口を開く。
「本当に、ゼルバギウス家に戻る気は無いのか?」
「はい。」
それに関してはきっぱりと答えておく。
「何故だ。今までの罪も償おう。今後一切、お前に苦労をさせるつもりはない。」
それは、聞き方によっては非常識にも聞こえるかもしれないが。
この国、というよりこの大陸でいえば、彼の発言は、美談に分類されるものだ。
というのも。
以前話したように、魔法の存在するこの世界において望まぬ妊娠というものはほとんどない。
そのため、不義の子というものは基本的には存在しないのだが、しかし、そこは男女の話。
妻子ある貴族が使用人と、という話はなくはないし、普通は関係を持つだけだが、時に子供を望むことがあっても誰がそれ咎めることが出来ようか。
この大陸における性への考え方が、地球のそれと違うのは今までにも感じたが、夫婦におけるそれもまた同様だ。
こと貴族において、夫婦は互いだけと言う考えはマイノリティだ。
もちろんそういう夫婦もいるし、ゼルバギウス夫妻はおしどり夫婦として有名なわけだが。
大抵の貴族の場合、パートナーとは別の相手がいるのが当たり前らしい。
その上で子どもを望む場合には、継承権を放棄させた上で、貴族側が生活費を払い、生活を送らせるのだそうだ。
私も最初驚いたが、これは男女のことらしく、つまり貴族の女性が夫ではない男の子どもを腹に宿したまま家族と生活するのが当たり前らしい。
地球では考えにくい情景だが、むしろ隠さず、ちゃんとオープンにすることが、この国では尊ばれるのだ。まあ、そういう文化というだけだろう。
というわけで、先ほどの当主の発言も、私をどういう立場として受け入れるかにもよるが、自らの子供として認める生活を助けると宣言すれば、正直で甲斐性のある当主様とでも評価されるだろう。
そう、問題は私の立場と、私自身がこの家に戻る気がないということだ。
私自身のことは置いておいて、そこを確認しよう。
「とはいえ、私をどう言った立場で迎えるとおっしゃるのでしょうか?」
と聞けば、
「それは。ルーク。お前が望むなら、本来あるべき、この家の長男として。」
「それは困るね。」
当主の言葉に私が反応するより先に、師匠が口を開く。
「そんなことをすれば今いるレイはどうするんだい?」
師匠の言うとおりだ。
私もそのまま尻馬に乗せてもらう。
「師匠の言うとおりでございます。そもそも私は貴族としての教育など何も受けてはおりません。たとえ事実がなんであれ、このお家の騒動はこの国の、ひいては大陸の動乱にもなり得ましょう。」
と私がいえば師匠も重ねて、
「やっと、長年の計画。人と魔族との最初の出会いが行われようとしてる時に、ゼルバギウスが不安定になるのはこちらとしても、困るんじゃよ。」
という。
シンデレラなんてのは童話だから成り立つのだ。
ただの娘が王妃となれば、それで困るのは支える家来や民衆だ。
当主自身もそれは理解しているのだろう。私達の言葉に反論せず、聞いてくれている。
「当主様の申し出、感謝致します。しかし、出来ることならば私はただのルークとして、今後も師匠の元で学び続けたいのです。」
そう伝える。
何を言ったところでそれが私の希望であり、現実的な落としどころではないだろうか。
私の言葉の後、しばらく沈黙が続いた。
「そうか。」
絞り出すような当主の言葉で、この話の決着がついたことが決まったのだった。
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