「何者にもなれない人」の熱と意地の物語

物書きも含めて、創作やスポーツに携わる人は多かれ少なかれ感じるテーマだと思います。
熱意や自信を喪失したり、生活や進路を優先したり、挫折を経験して二度と見たくなくなったり、
僕自身も小説ではないところでそういう経験があるので、とてもダイレクトに感情移入できるテーマでした。

一方で、主人公はまだそれが好きな心を持ち続けていて、その心と技量を理解し、評価してくれる存在がいる、という点で恵まれているとも思いました。
挫折を機に「なんでこんなものを好きだと思っていたんだろう」と捨て鉢な気分になったり、
創作とはまた別のことに興味が向いて自然消滅的に創作への興味が薄れてくる、といった心境も味わうことがあり、
そういう時にはどう折り合いをつけるのが正しいのか、ということも読後に個人的に少し考えました。

そうしたところも含めて、本作ラストの「諦めなければ夢は叶う」という(きれいごとのような)言葉は実は壮絶で、
そこに懸けた想いがあるのなら誇るべきなのだ、というラストメッセージは非常にずんと来るものがありました。
歳月を経ても、少々評価されなくても冷めない情熱こそ、宝石だと思います。