回転木馬
膕館啻
【0の世界】
【回転木馬】
一度回り始めると、そこから永遠に降りることはできなくなる。
速いようで、遅い。遅いようで、速い。
顔が歪んで、離れて。見えなくて、隠れて、現れて。
それが怖かったから、私は乗ることを拒んだ。でもそれには無理やり乗せられていて、もう振り返ることができなかった。
【0の世界】
耳にブツブツと途切れる音が聞こえた。ぼんやりしていた目を擦り目覚めると、そこは暗い部屋だった。ただの部屋ではなく、狭いけれど映画館だと分かった。
座席が二十個ぐらいしかなくて、一番前の席にはくたびれたホームレス風の男が一人で座っていた。他の席には綿が飛び出しているボロボロの人形が、同じぐらいボロくなったイスの上に乗っていた。
スクリーンには映像が映っているけど光を飛ばしすぎなのか、単に古いだけか、白い部分がほとんどで内容はよく分からなかった。
仕方なくホームレス風の男に近づくと、酒のビンをゆっくり持ち上げてこちらをジロリと振り返った。
「あの、ここは……」
その様子が少し怖かったけれど、全く身に覚えのない場所に居たので、とりあえず質問してみることにした。
「ここは無の場所。君が最初に居たのならここは始まりだから、無となるんだ」
さらさらと喋った声は思ったよりも若く聞こえた。だけど何を言っているのか全く分からない。
「あの……?」
「ここは映画館だよ」
変わった。聞いて一秒後に変わった。それと映画館だということは一応私も知っている。
「じゃあ何をしているんですか」
「映画を見てる」
そりゃあそうか。もう一度スクリーンを振り返る。無声映画のようで、髭をつけたオジさんがタバコを吸っていた。ぼんやりとしか分からないけど。
面白いんですか? という質問を堪えてもう一度辺りを見回す。
「お嬢さん、そろそろ映画が終わるよ」
出ていけということだろうか。確かにここに居ても何も無さそうだけど……と、仕方なく最後に一目だけ振り返ってから扉を出た。
扉が閉まった瞬間に建物の色が変わった。黒かった建物は赤っぽいサビだらけになってしまった。不思議に思い、触ってみる。だけどそこはもう開かなかった。何年も前から置き去りにされた廃墟のようになっている。
仕方なく扉から目を離すと、辺りもそんなガラクタの山だらけだと言うことに気づいた。
空は昔に撮った写真をそのまま使ったようなセピア色にぼやけている。その下に、ガラクタといってもただのゴミようなものではなく、珍しいものが大量に放棄されていた。馬や象のモチーフの大きな人形に一本長い棒がついていたり、カラフルなピエロが描かれた看板。ジェットコースターの座席だけ。そうか。恐らくここは、遊園地だったんだ。
全体がサビれメッキは剥がれているけど、元々は楽しそうな場所だったのではないかと思った。
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