【続】

灰色から白に変わると、もうランタンは必要なくなった。それを持て余していると、声が聞こえた。それも一人ではなく数人だ。

カンカンと靴音が廊下に響く。私はここを知っている気がする。嫌な予感がして足を早める。

「あれ……」

私はなぜか駅のホームのようなところにいた。

「……なんで?」

突然強い光に照らされた。大きな音がしてそちらを見ると、電車がやってきた。クラクションが鳴って、私の前に止まる。

電車の中は学校の教室になっていた。机に座っているのは銀色のロボット達だ。誰一人顔を上げずに、黙々とノートに何かを書いている。

「なに……これ」

走って別の車両を外から覗いてみた。どこを見ても同じ景色だった。次の車両も、次も、次も。そしてホームの中も、どこかへ行ける場所はない。線路と電車しか存在していない。

乗りたくない。とっさにそう思った。

電車は止まったまま、小さくカリカリと鉛筆の音が聞こえる。

「早く……早く行ってよ。私は乗らないわ!」

ロボット達は何も反応しない。

「……」

恐る恐る足を踏み入れて、体が全部入ると扉は閉まった。ガタンと電車は動き出す。

よろめきながら中を進んだ。教室の中心を通って、次の車両へと歩く。その間ロボット達は、嫌な視線を私へと向けてきた。

「なによ……ただの機械のクセに」

次の扉を開けてもやっぱり同じだった。空いている席はない。私の席はなかった。

クスクス――どこかから笑い声が聞こえた。

「……っ」

振り返ると、にやりと全員が同じ顔で笑っている。連鎖的に響く笑い声に扉を閉めて、走った。

どこに行っても、どこまで行っても……終わらない……止まらない……。

やめて……ここにはいたくない。

「うるさい! 黙ってってば!」

クスクス……クスクスクスクス――

震えが止まらない。笑い声が、顔が、ぐるぐると回って……私の、頭の中に……。

嫌っ……嫌嫌嫌嫌嫌嫌……嫌なの……ここは……ここにはいたくないのっ!誰か、誰か助けて……っ!

「……っ!」

真っ白な光が、目の前にあった。全部が見えなくなる。ただそれがこちらに向かってきていることだけは分かった。

私は全てから逃れる為に、目を閉じた。




凄い衝撃だったんだと思う。ぼーっとする頭で体を起こすと、辺りは何もなかった。

あれ、私は……。どこにいたんだっけ、何をしていたんだっけ……。ここがゴール?

膝を抱えて、思い出す。

体が痛い。頭が重い。心が痛い。私は知らないうちに涙を流していた。

ここが私の居場所なの?

「だったらぴったりね……」

真っ黒で静かで何もなくて――私みたい。

「……ん?」

深い闇に飲み込まれてると思ったら、本当に足元がぬかるんでいた。ズブズブと黒に飲み込まれていく。泥みたいなものに膝まで浸かった。這い上がろうとしても、動かない。

「……うっ」

黒が口元まで入ってきた。呼吸が出来なくなって、本能的に恐怖を感じる。

誰か……!

手を必死に伸ばしても届かない。


誰か、なんて……誰がいるというのだろう。

私を助けてくれる人なんて、いないものね……。

諦めて目を閉じた。


全てが闇に包まれる直前――


「ダメだっ! 起きろ! 目を覚ませっ……今すぐここから連れ去ってあげるから!」

誰……?

………………。

………………………………。

…………………………………………。

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