【おもちゃの館】
仕方なく、また歩くしかない。あの子と一緒にいると不思議と落ち着いて……こんな場所でも大丈夫かもしれないと思ったのに。
とぼとぼと、色をなくした世界を歩く。終わりは見えそうにない。
しばらく何もない中で見えてきたのは、映画館以来の形をちゃんと保った建物だった。
「どうしようかなここ……」
入るべきなのか迷ったのは、とにかく外見がド派手だったから。ピンク色の壁にカラフルなアート……ううん子供の落書きがいっぱい。でもここ以外何もなさそうだし、仕方ないか。
「お、お邪魔します」
誰かの家なのか分からないけど、一応言っておく。
中に入ると目に飛び込んできたのは、たくさんの人形達だった。動物のぬいぐるみからブリキの兵隊、フランス人形までがごっちゃと置かれている。しかもサイズは超特大! ライオンや象なんかは私の身長をゆうに超えている。本物ぐらいありそう。それにびっくりしていると、オルゴールの音がどこからか聞こえてきた。どこだろうと音を探していると、中の壁にも落書きがあるのに気づいた。子供が住んでいるのかな?
その時カランと何かが落ちてきた。足元を見ると、人形が一つ倒れている。これだけ沢山積み上がっているから落ちてきたのかな? でも落ちたというよりは投げられたような……。
――キャハハ!
突然聞こえた声に警戒して辺りを見渡す。
「誰かいるの? ……ボフッ!」
顔にクッションみたいのが当たった。
「何よ! ちょっと、いるなら出てきなさいよ!」
キャハハ! アハハ! 先ほどよりも確実に大きくなっている笑い声。数人の子供がいるらしい。
「子供だからって、何でも許されると思ったら大間違いよ! ……いでっ!」
人が説教してやろうとしたら、頭にお菓子の箱が直撃。
「出てきなさいよ!」
――ズゴオオオオオ……。
「……なんの音?」
後ろを振り返ると、ごちゃごちゃのおもちゃ達が宙に浮き始めていた。それらが真ん中に集まって吸い込まれるように、一つの塊になっていく。やがてそれは大きな人型となった。天井が高い場所なのに、もう頭が上につきそうだ。腕のようなものを振り上げて私の方に……って、待って! ちょ、ちょっと! 逃げなきゃこれ!
「何なのよこれ……っ」
叫びながらなんとか避けて扉を目指す。その間もうるさいぐらい笑い声は止まらない。
「やめて……っうるさいってば!」
どうにか間一髪で扉から出ると、中から来られないように全身で押さえた。
「はぁ……っ、もういきなり何なのよ……びっくりした」
さっきの森とは大違いだ。一息ついて、扉を見つめる。音は聞こえてこなかった。
「もう大丈夫かな……」
手を離すと建物は色褪せ、また入れないようになっていた。
【SSW(スクールスクエアワールド)】
本当に変なところだ。こんなのがまだまだ続くのかな。私が諦めて歩くのをやめたらこんなこともなくなるけど、何もないところでじっとするのもそれはそれで同じぐらい辛そうだ。だったらまだ可能性を求めて歩いた方がいい。またあの子に会えるかもしれないし。
ふと足元を見ると、先ほどの建物から歩いてきた分だけ色が変わっていた。今までと同じ色褪せた、何年も足を踏み入れられなかったような道になっている。だったらゴールもあるのかもしれない。全部の道の色を変えたら帰れるとか、そんな感じで。望みは薄いけどね。
「あれっ……」
鼻歌で暇を誤魔化しながら歩いていると、急に細い黄色の道が出てきた。ずっと広い道だったのに、こんなの露骨に怪しい。また変な場所かもと迷ったけど、一応行ってみることにした。危なそうだったら戻ればいいし。
「んー……戻れるかな?」
後ろを振り返ると、さっきまでの道は見えなくなっている。思ったより長いけど、危険そうな雰囲気はない。もしかして裏ルート見つけちゃったのかも。
「うーん……」
今度はトンネルが出てきた。ねずみ色の定番のやつ。少しだけ向こう側が見えるので、あまり長くないはず。
「わぁ!」
潮風がスカートを揺らした。黄色の道は砂浜になり、目の前に広がるのはどこまでも続く海! ……だけど何か違う。本物じゃない。色鉛筆で描いたみたいな淡い色の空と海。それから大きな大きな砂のお城。本当にお城ぐらいある。
この空間の全てが淡い色で作られていた。ちょっと現実味はないけど、それでもあの色のない場所よりはマシだ。柔らかい風が気持ちいい。
砂のお城は何の飾りもついていなかった。子供の工作みたいな雑さを感じる。窓の所には赤と青と緑色、セロファンみたいなガラスがはめ込まれていた。
よく分からない場所だけど、なんだか癒された。ぽかぽかと太陽の暖かさを背に、トンネルへ戻った。
ここは振り返っても、色が変わった様子はない。また入ることができそうだ。やっぱりレアな場所だったのかも。いや、単に行く意味がなかっただけ?
元のところまで戻ってきて仕切り直し! 今度はここの大きい道を行こう。黒と白のダイヤ柄、すごく目が痛くなるけど。
進むうちに白黒はだんだん薄まって、灰色みたいになってきた。
「……なにこれ」
本当になにこれと口に出してしまうほどの物体、四角形の何かが空中に浮かんでいた。それはプラスチックのような素材で、光を発している。そんなに大きくないダンボールぐらいで、蛍光の水色だ。それがたくさん浮遊をしていた。上がり下がりするそれらは若干大きさや形が違うみたいで、それに当たらないように歩く。
「どんどん変なところに向かってるなぁ」
四角形達は一カ所に集まったり、自由自在に動いていた。
少し辺りが暗くなってくる。更に進んだだけで、真っ暗になってしまった。顔に風は感じない。ここの空間一体が、もう建物みたいなものなのかもしれない。
いつのまにか道が狭まっていたらしい。壁のようなものに触れたので、それにつたって歩く。触っていた部分にまた落書きが現れた。
ぐにょぐにょのヘビみたいな奴とか、お花とか。ここにも好き勝手落書きがされている。でも光る奴で書かれていると、下手くそでもそれなりのアートっぽく見えてくるから面白い。しばらくその落書きを見ていたら、視界の先に白い光が現れた。曲がり角なのだろう。薄っすらと明かりが漏れている。
明るいところに出られると、駆け足で向かった。
「わぁ、凄い!」
空は淡いピンク色、暖かい陽が照らす世界の下には、お花畑が広がっていた。さっきの森も素敵だったけど、やっぱり女の子は可愛いものが好きだ。
「一本だけゴメンね!」
凄く綺麗に咲いてるから、まじまじと眺めて洋服につけておいた。とってもお気に入り。
ここで休憩しようと、柔らかな草の上に横になった。お花の匂いがふわりと香る。
「……ん?」
どれくらい寝ていたんだろう。ピチャッと何かが顔に当たった気がして起きる。手を頰に当ててみると、指先が濡れていた。
――ぽつ……ぽつぽつ。
さっきまでピンクだった空は、灰色になって雨が降り始めた。
「た、大変!」
まさかここでも雨が降るなんて思わなかった。スカートの裾を持ち上げて、走り出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます