第9話

○大学・講義室

   サバ子、構内を駆け回る。

サバ子(M)「…どこ? どこ? どこ!?」

   やがて辿り着いた一室で声が聞こえてくる。サバ子が覗き込むと嘴がい

   る。

サバ子「太さんーーっ」

   と扉を半分開けたところで気づく。太と一緒にいたのは野生生物学の教授

   である。二人は親密そうに話している。

嘴「なあ先生 カラス食ったって本当か?」

教授「本当だ」

嘴「だが人間ってのは カラスや猫を勝手に取って食っちゃいけないんだろ?」

教授「少なくともこの国の法律や心情はそのようになっている」

嘴「だが死骸ならどうだ? ネコも死ぬ カラスも死ぬ 死にたてホヤホヤの大量の死 骸が手に入るとしたら 興味あるか?」

教授 不思議なことをいうやつだな 猫とカラスで殺し合いでもするのか?」

嘴「そんなところだ」

教授「ふむ」

   教授は少し考える。そしてニヤッと笑う。

教授「そういえば日本の野良猫は食ったことがないな」

   ガタンという物音に嘴は振り返る。

   青ざめるサバ子と目が合う。

サバ子「…人間に寝返ったんですか」

   サバ子逃げる。

嘴「くっそ…!」

   嘴、追いかける。

教授「あん? 痴話喧嘩か?」


◯大学(夕)・構内

嘴「サバ子!? どこいった!?」

   講義室の外にサバ子の姿はない。嘴はカラスの姿に戻り、天高く飛び上が

   る。大学の屋上から一帯を見回す。いた。必死に逃げる三毛猫を見つける。

   嘴、急降下して襲いかかり、もみ合いながら芝生の上を転がる。

嘴「おいサバ子! 落ち着け! 聞けよ!」

サバ子「あんたのスカスカの骨なんか噛み砕いてやる!」

   サバ子の牙が嘴の羽に食い込む。

嘴「…くっ! 聞けって」

嘴『COORRROOOWWW!!!』

   荒い呼吸。

   サバ子は嘴の羽から牙を抜く。

   両者人間の姿に変わる。

   サバ子、嘴に馬乗りになったまま荒い呼吸を繰り返す。

サバ子「わたしあなたのこと売ったんです…」

嘴「……」

サバ子「戦争の口火を切ったのはわたしなんです…」

嘴「バカが… どうでもいいんだよ んなこと」

   嘴、手を伸ばしてサバ子の涙を拭う。

嘴「悪いがあの先生には『猫とカラスを捕獲しに来た悪い人間』になってもら

 う ケケケ猫もカラスも共通の敵を前にしたら戦争どころじゃなくなるぜ」

サバ子「…しかし根本的な解決にはなりません」

嘴「ああ猫もカラスもバカじゃねえ 人間が自分たちに危害を加えないとわかれ

 ばくだらない戦争を続けるだろう だったら既成事実を作りあげてやればい

 い 強大な敵にむざむざと捕獲される同類を目の当たりにしたら手を取り合わ

 ざるを得なくなる」

サバ子「…まさか」

嘴「おれが捕まる」

   間。

サバ子「…焼き鳥か唐揚げか 活け造りにされるかもしれません」

嘴「上等だ 寄生虫の恐ろしさ思い知らせてやるぜ」

サバ子「…ですね 胃袋の中で大暴れしてやりましょう!」

嘴「…は?」

サバ子「太さんの策に落ち度があるとすれば一つ! 猫の方にも犠牲が必要だと

 いうことです! わたしもおともします」

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