第2話

◯ラーメン屋(夜)・カウンター席

大将 「へいおまち!」

   一杯のラーメンがサバ子の前に差し出される。サバ子は目を輝かせ、ダラ

   ダラと涎を垂らし、どんぶりを天に掲げる。だがハッと気づく。

サバ子「まさか毒が…」

嘴「入ってねえよ 大将に謝れ」

サバ子「しかしカラスから施しを受けるいわれがありません」

嘴「そうだな 八咫烏様が知ったら大目玉だ」

サバ子「申し遅れました わたしは雉虎サバ子 三毛猫です」

嘴「…どれだよ」

サバ子「三毛です」

 間

嘴「食わねえならおれが食うぞ」

   サバ子はどんぶりを守るように抱えて汁を啜る。

サバ子「あぢゃああああああ!」

嘴「ケケケ 猫が猫舌忘れてらあ」

サバ子「騙したな! カラスの底意地の悪さには呆れ返ります!」

   サバ子、念入りにラーメンを冷ましながら麺を啜る。

   あっという間に一杯を食べ終わる。

サバ子「一ヶ月ぶりのまともな食事 ごちそうさまです お名前をお伺いしても?」

嘴「嘴太(はし ふとし) ハシブトカラスやってまーす」

サバ子「なんと… その理屈でいったらハシブトカラスは 全て嘴太さんになってしま います」

嘴「うるせえなあ 野良モンの名前なんてそんなもんだろ」

サバ子「太さん この借りは必ず」

嘴「恩なんて感じる必要はねえぞ 誰が奢るっつった?」

サバ子「…え? まさか…」

   店内が「カラスだ!」「猫だ!」と騒然となる。


◯路地裏(夜)

   路地裏に逃げ込んだ一羽のカラスと一匹の猫。

   ボム! と人間の姿に変身する。

嘴「ケケケ! てめえで喰い逃げ犯追い出すなんて 人間は度し難い阿呆だね

 え」

サバ子「はあ はあ はあ みだりに人間に化けて街の風紀を乱してはならな

 い!『化け学』の基本でしょ!? 人間に仇なせば 巡り巡って種を滅ぼすこ

 とに繋がり かねない!」

嘴「愛玩動物として最盛を極める種族らしい言葉だねー」

サバ子「野良猫と飼い猫を一緒くたにしないでください! わたしたちの自由と誇りを 愚弄することは 何人たりとも許さない!」

嘴「自由とは? 誇りとはなんぞ 生きることは食うことだ 腹減らして死ぬぐ

 らいならおれは腹いっぱいで滅びる方を選ぶ」

   嘴はカラスの姿に戻ると、天高く夜空へ消えていく。

サバ子「やっぱりカラスは信用なりません!」

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