第7話

◯道(夕)

   三人と別れ、嘴とサバ子は二人で歩く。

   夕焼けに向かってカラスが飛んでいる。

   しばらく二人無言だったが、サバ子が口を開く。

サバ子「太さんのあの声 初めて会った時と同じ鳴き声ですよね」

嘴「『明烏』ってんだ カラスだけが持つ特別な能力で何かに熱中している奴らがあの 鳴き声を聞くと 急に全てがバカバカしくなっちまう」

サバ子「おせっかいな能力ですね」

嘴「まったくだ」

   ふとサバ子の表情がやや険しくなる。

サバ子「…太さんが学校にいるのは 復讐のためですか?」

   嘴は少し驚く。

嘴「…身内が食われたのは事実だ」

サバ子「…野生生物学の先生ですよね?」

嘴「さあ知らねえけど多分そうだ だがおれは復讐なんかするつもりはない 腹が減る だけだ 第一カラスに人間を殺せっつうのか? どだい無理な話だ」

サバ子「あなたは人間のことが嫌いなんですか?」

嘴「好きだよ 馬鹿で間抜けでからかいがいがある お前は?」

サバ子「どちらとも言い難いです でもカラスは嫌いです うるさいし意地悪だし自分 たちだけは人間の影響を受けずに生きていると思い込んでいる」

嘴「けけけ そうかいーー」

   キス。サバ子と嘴の唇が重なる。

サバ子「人間同士の親愛の証だそうです」

嘴「おれはカラスだ お前は猫だ」

サバ子「このまま人間になってしまうというのはどうでしょうか」

嘴「けけけ それも悪くねえな」

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