夏が始まる!①

6月に入ると、夏の甲子園の東東京予選に向けてチームが本格的に動き始めた。俺自身はと言うと、5月以降、一軍メンバーに帯同し、練習試合では主にショートを任され、時々セカンドとサード、さらにセンターを守る機会もあった。そして6月中ばに行われた校内合宿の最終日で、夏の大会の登録メンバーが発表された。




◇ ◇ ◇




渋谷学院高等部


部長 茅野正雄かやのまさお

副部長 岡部春佳おかべはるか

監督 日笠直人ひかさなおと

コーチ 岩崎修一いわさきしゅういち熊田雄平くまだゆうへい


ベンチ入りメンバー


1 投 筒井一誠つついいっせい 左左 3年

2 捕 辰巳翔太たつみしょうた 右右 3年 主将

3 一 鈴木周吾すずきしゅうご 右右 3年

4 二 高橋直人たかはしなおと 右左 2年

5 三 中島健太なかじまけんた 右右 2年

6 遊 相川優あいかわゆう 右右 1年

7 左 林正樹はやしまさき 右左 3年

8 中 佐々木祐介ささきゆうすけ 右左 3年

9 右 長谷川哲也はせがわてつや 右左 3年

10 投 生田敏明いくたとしあき 右右 3年

11 投 野中孝介のなかこうすけ 左左 3年

12 捕 山下優斗やましたゆうと 右右 3年

13 捕 松本雄馬まつもとゆうま 右右 3年

14 内 新井優作あらいゆうさく 右左 3年

15 内 植田昌宏うえだまさひろ 右右 3年

16 内 松井孝明まついたかあき 右右 3年

17 外 伊藤正典いとうまさのり 右右 3年

18 投 牧野武昭まきのたけあき 右右 3年

19 内 大野慎之助おおのしんのすけ 右右 3年

20 外 小坂裕二郎こさかゆうじろう 右左 3年


記録員 大石柚乃おおいしゆの(3年)




◇ ◇ ◇




俺は1年生で唯一、ベンチ入りメンバーに入ることができた。それどころか、背番号6でショートのレギュラーを取ることができた。正直これはとても嬉しかった。合宿が終わり、寮という名の我が家に戻ると、背番号6が縫われたユニフォームをみんなに見せた。松永からは「もうレギュラーなの!?優っち、凄いじゃん」と言われ、尾崎からは「1年生でレギュラーって凄い・・・私、試合見に行くからね」と言われた。そして安達からは、「優くんおめでとう!私、試合見に行くから。優くんの勇姿、ちゃんと見れたらいいな・・・」と言われたのだった。




◇ ◇ ◇




抽選会の結果、渋谷学院は1回戦から登場し、3回戦まで勝ち進めば、第1シードである帝道ていどう高校と対戦する構図となった。帝道高校はここ数年甲子園から遠ざかっているが、甲子園優勝経験もあり、数多くのプロ野球選手も輩出した全国区の強豪私学である。昨秋の都大会ではベスト4まで勝ち進み、そして今春の都大会では久しぶりの優勝。続く関東大会でも準優勝という戦績だ。


ちなみに東東京代表の有力校には、帝道の他に、昨年の東東京代表校である一松学舎いっしょうがくしゃと、昨秋の都大会で優勝し、今春の甲子園でもベスト8まで勝ち上がった東京一高とうきょういちこうの名前があった。それぞれ第2シードと第3シードで、帝道とは横一線である。


そして後に続くのは、いずれもシード校である、大山台おおやまだい雨谷あめがや江東こうとうの都立勢3校と、織越おりこし翔徳しょうとくの古豪2校であった。シード校は以上の8校。そしてノーシードの注目校に挙げられていたのは、いずれも好投手を要する、目白第一めじろだいいち多摩川実業たまがわじつぎょう、そして我が渋谷学院であった。




◇ ◇ ◇




エースの筒井さんは最速142km/h。スライダーと縦に落ちるカーブが武器の長身左腕だ。筒井さん曰く、春の大会の後、球速が急激に伸びたと言っていた。ちなみに、筒井さんは高校入学時から身長が190cm近くあったものの、かなり線が細く、体重を増やすのに苦労したそうだ。そして控え投手である生田さん・野中さん・牧野さんも常時130km/h台の速球を投げることができ、筒井さんに引けを取らない実力がある。


打線の軸は3番打者で強肩とシュアなバッティングが特徴の佐々木さんと、4番で正捕手、主将も務める辰巳さんだ。辰巳さんは昨年の秋大直後と比べて、体重が10kg以上増えたと言っていた。そして俺が入学してきてからの練習試合では、本塁打を量産。高校通算本塁打数も30本を超えた。




◇ ◇ ◇




夏大のメンバー発表と抽選会が終わり、6月末の練習試合が終わるといよいよ夏の甲子園の東東京大会まで、あとわずかとなる。1度でも負けたら終わりの一発勝負。1ヶ月後、東東京の頂点に立ち、甲子園のその姿を表すことができるのはたった1校のみ。そして2ヶ月後、敗戦の経験を知ることがなく、全国の頂点に立てるのは全国約4000校のうち1校。




夏への扉は、俺たちの眼の前で音を立てて開いたばかりであった。

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