引退試合②
試合の方は、紅組・中村と白組・横山による投手戦から始まった。3回までは0対0。中村は1人の走者を出さない完璧なピッチングで、横山も出したランナーは、2回に安打を放った俺だけだった。
そして4回表、紅組は2番鈴木から始まる打順。先頭の鈴木がレフトへのツーベースで出塁。紅組は初めて得点圏にランナーを置くが、続く3番・永井はライトフライに倒れる。しかし、鈴木がタッチアップし、3塁に進むことができた。そして続く打者は4番であるこの俺。俺はカウント2ボール2ストライクからの5球目に、きっちりセンターフライを打ち上げることができ、3塁からタッチアップした鈴木が生還。紅組が先制する。そして、続く5番・山本がライトへホームランを放ち、紅組は2点を先取した。
そして4回裏、紅組の先発・中村は先頭の1番・村瀬にセンター前へ運ばれ、初めてのランナーを許した。そして村瀬にすかさず盗塁を決められ、ノーアウト2塁。村瀬は打撃がアレで控えだったけど、足の速さはさすがだな。さらに続くバントの上手い2番・加藤にはきっちり送りバントを決められ、1アウト3塁。ここで迎えるバッターは3番の田村。苦手な左投手が相手とはいえ、代打の切り札だ。足も速い。中村は2球で追い込むも、1球外した後の4球目にセンター前へ運ばれ、2対1。なおも1アウト1塁で4番・堀田。ここで紅組ベンチが動き、中村はファーストへ、ファーストの近藤はサードへ、サードの鈴木はショートへ、そしてショートの俺がマウンドに上がった。
俺はショートが本職だが、投手も務めることができる。小学校の時はエースピッチャーで、自分で言うのも何なのだが、プロ野球のジュニアチームに選ばれたくらいの実力だ。肩もかなり強いので、最高球速は中学生ながら、140km/h台に達する。
結局、俺は堀田を三振に取り、続く5番・岩本もセンターフライに打ち取り、この回のピンチを切り抜けた。スコアは2対1。紅組の1点リード。
5回表、白組の投手が右の横山から左の
そして5回裏、俺は先頭の6番・西川に安打を許したが、無失点で切り抜けることができた。6回表も紅組は三者凡退。そして6回裏、紅組の投手は右の
7回表、白組の投手はライトを守っていた左の井上に交代。井上は川田と同じ左投手だが、こちらはスピードこそ遅いものの、横から投げてくるくせ球とコントロールの良さが特徴だ。ただ、弱点があった。ストレートの伸びが悪い上に、球が軽く飛ぶ。だから控え止まりなんだよなぁ・・・そして、川田はそのままライトの守備に入った。紅組の攻撃は4番の俺から始まる。そして・・・
初球だった。俺はすかさず井上の甘い球を捉え、打球はレフト方向にぐんぐん伸びていった。飛距離は十分。ソロホームランだ。俺は左投手に滅法強いんだよ。んで、3対1。そして紅組は2アウト1塁から、8番・梶山の2ランホームランで2点を追加し、5対1に点差を広げることができた。
そして7回裏、河合はこの回も三者凡退に抑え、5対1で紅組が勝利した。
◇ ◇ ◇
試合が終わると、互いに礼をし、父兄と下級生のいる観客席にも深く一礼をした。そして、村上監督が3年生1人ずつに、それぞれ感謝のお礼を言ってくれた。特に俺は主将だったので、村上監督から一番長く感謝のお礼を言われてしまった。・・・しかし、陽もすっかり西に傾いてしまったな。
「優!高校でも頑張れ!お姉ちゃんは最後まで応援しとるで!」
俺が観客席に向かうと、麻衣さんが俺に向かって大声で叫んでいた。すいません、恥ずかしいからやめてください・・・そして、安達も「優くん、すごいじゃん。めっちゃ格好よかった。高校でも応援してるよ!」と言ってくれた。
◇ ◇ ◇
帰宅する頃にはもう夜になっていた。俺はその後、後片付けをし、親父の運転する車で帰宅したが、麻衣さんと安達は一足先に帰宅していた。どうやら麻衣さんが行き帰り、車を運転していたようだ。
帰宅するとすぐ、食事の時間だ。完全にお腹はペコペコ。そして、今日の夕飯は早川さんと尾関さん曰く、俺の引退試合を記念する特別なメニューだった。しかし、いつもより食事の量が多いな。シニアを引退する前は、いつもこれくらい食べてたんだけどさ。
夕食を食べ終えると、俺は安達に呼び出され、安達の部屋に入った。寮は2人ないし3人部屋だ。ちなみに安達は松永と尾崎と同室である。しかし、初めて寮の部屋に入ったけど、女の子の部屋ってこういうものなんだな・・・優衣姉や優里とはまた違う、いかにも女の子という部屋だ。
「それより、松永と尾崎はどうした?」
「まだ仕事。10時くらいまで帰ってこないよ」
「そうか」
風呂から上がったばかりの安達の長い黒髪は濡れており、綺麗だった。
「優くん、今日はめっちゃ疲れてるでしょ?代わりに私がマッサージしてあげる」
俺は安達に言われるがままに、安達のベッドの上に倒れこんだ。いかにも清潔な、女の子の匂いがする。そして、安達が俺の上に乗り込んだ。その間俺は一瞬、時計の方向に目を向けた。時計の針は夜の9時になろうとしていた。
「うわ、ここめっちゃ凝ってるね・・・」
「ああ。でも、よくわかったな」
「私も日頃のレッスンでバキバキだからね・・・どこが凝ってるのかは大体察しがつくの」
「ありがとう。うわ、めっちゃ気持ちいいわ・・・」
俺と安達のスキンシップは1時間近く続いた。そして、
「安達のマッサージ、めっちゃ気持ち良かったわ。俺、これから風呂入って寝るわ」
「ありがとう。私も優くんの力になれてよかった。んじゃ、おやすみ。優くん」
安達は部屋を去ろうとしていた俺に、天使のような笑顔を振りまいてくれた。そして、この時の安達の笑顔が、誰よりも可愛いと思ったのは言うまでもない。
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