春の朝
意識が浮上する。
途端に暑さを感じて、自分の身体を覆っていた毛布を蹴り飛ばす。光が差す狭い部屋にばっと埃が舞って鼻を刺激した。
起き上がりながらくしゃみを一つ。ズビっとマヌケに鼻を鳴らして、枕の元へ逆戻り。
顔の側で充電ケーブルに繋がっていたスマートフォンを手に取って、画面を告げる。見慣れた青地に鳥のマーク。
光る画面の中、顔の見えない誰かが思い思いに何らかの言葉を発信している。それらに反応を返すでもなく画面を眺めるだけの、自堕落な時間が過ぎていく。
暖かな布の感触と音のない静かな空間。いつもと変わらない春の朝といつもと少し違う自分。
何に触発されたかぼんやりと火が灯った私は、剥き出しになった腹を労わるように手を置いた。
大の字に寝転んだまま、鳩尾を撫で、臍を擽り、右手は下へ下へと降りていく。そのまま、まるで何かを抉じ開けるかのように肌と下着の間に右手を滑らした。
無意識のうちに止めていた息を細く長く吐き出す。
午前十時半。両親はとっくに仕事に行っている。
家には誰もいない筈なのに何処かから見られているような感覚が、息を詰めさせる反面、言いようのない興奮を覚えてカチリとスイッチが切り替わる。
下生えを指で遊ぶように弄り、更に下へとゆっくりと手を伸ばした。
きちんと風呂で清めたそこはじんわりと濡れていて、人間の身体の単純さを物語る。
昨日あったかどうか分からない膜を失ったばかりの身体は、今日も今日とてあっさりと熱を上げていく。
内側からじわじわと溢れ出す粘液を指で掬い、小さな肉芽に触れる。ピリッとした感覚が走り抜け、思わずあふれた吐息が部屋に響いた。
なんだか堪らない気分になって、蹴飛ばした毛布を脚で寄せて掛け直す。
その更に奥、ぽっかりと空いた穴を指を挿し入れてみるが、異物のある違和感が勝り、あっさりと諦めた。
たかだか指一本なのになぁ、と身も蓋もないことを考えながら、一つ、ふっと笑いを零す。
布団の中で蒸れて焦れた身体は早々に直接的な快感を追いかけたくなり、正直に手前の神経の芽を擦り始める。
下品に脚を広げながら快楽を追いかける様はとても人に見せられたものではなく、脳の隅に残った冷静な自分が「はしたない」と嘲笑う。
熱は留まることを知らないかの如く上がっていき、いよいよ理性と本能のバランスが崩れたその時、稲妻が走ったように身体が強張り、爪先がピンと伸びた。
数秒。
ようやく弛緩した身体と共に、ゆっくりと息を吐き出す。
気怠さをそのままに顔の横に手を伸ばしてティッシュを数枚取り、指を拭うとゴミ箱のある方に放り投げる。ちゃんと入ったかは確認せず、そのまま腕の力を抜いてマットレスの上に落とした。
頭の横に放置されていたスマートフォンがポコンと音を立てる。ゴロンと頭を横にやりながら通知を見ると、インターネット上の知り合いからのメッセージだった。
いつものようにふざけた言葉を投げかける相手は、私の変化も、こんな朝から馬鹿げたことをしていることも、何も知らないのだ。
妙に愉快な気分だ。
自嘲なのか、悪戯が成功した時のそれなのか、自分でもよくわからない笑みを浮かべながら、私は再びスマートフォンを持ち直した。
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