解放
内臓が何か重い物でじわじわと押し潰されていくような鈍痛。自分の意思に反して溢れ出す血液。朦朧とする意識。起き上がることを忘れた私の身体は、布団の上に突っ伏したまま沈んでいく。
「う"ーー……」
どうにか苦しみを紛らわせたいと足掻く私は、呻き声を出しながら目を固く瞑る。いつもより体温は高いように感じるのに、いくら着込んでも冷えたままの下腹部を手で摩る。もう今日は何もする気が起きず、なんとか申し訳なさそうな声を出してバイト先に欠勤の連絡を入れると、無意味にベッドの上を転がり続けた。
「ちょっと、今日夕飯何食べたいのー?」
どれ程時間が経ったのか、いつの間にか帰ってきていたらしい母が扉越しに声をかけてきた。起き上がる気力すら無いのだから、当然食欲も無い。私はぶっきらぼうに「なんでもいい」と答えると、母は「なんでもいいが一番困るのよ」と文句を言いながら部屋の扉を開け、不機嫌そうな顔を覗かせた。
「あんた一日中布団に寝っ転がってないで、ちょっとくらい勉強でもしたら?」
始まる小言。私は拒絶するように布団を頭から被る。
煩いなぁ。頭に響くからその高い声で喚かないで。私の態度を見てますます声を荒げる母をどうにか黙らせようと、「生理」とだけ呟くと、母は小言をやめ、大きくため息を吐いた。
「薬は?」
「飲んでない」
「なんで?」
「効かなくなるから」
「靴下は?」
「履いてない」
「じゃあ今日鍋でいいわね?」
「うん」
すっかり慣れた様子の母の質問に布団を被ったまま答える。もう一度ため息を吐いた母は、少し柔らかい口調で「足先冷やすと余計痛くなるよ」と細かな気遣いを口にする。その言葉に私は目だけ布団から出して母の方を見やり、言葉にならない声で返事をする。
すると、そんな私の姿が面白かったのか、母はふっと笑いながら
「まぁ、母さんはもう生理こないから」
と呟いた。
その悪戯っ子のようで、どこか開放感のある笑顔が何故か目に焼き付いた。母の言葉と表情が霞んだ頭の中をぐるぐる回る。しかし腹痛はそこからの思考を容赦なく邪魔する。内側から蹴られているかのような酷い痛みを下腹部に感じて早々に答えを出すのを諦めた私は、
「そりゃ羨ましいね」
と一言、同じように笑いながら返した。
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