確認男 試合の帰り道編
「はぁ」
試合が終わってから、何度目のため息だろうか。
帰り道、幼馴染のみなみと二人っきりになっても、俺からため息は漏れていた。
「試合お疲れ様ー」
みなみは改めて労ってくれた。わざわざ休みに応援に来てくれた。なのに、ダサいところしか見せられなかったのが余計に悔しい。
「最悪だよ……。あんなに練習したのに」
今日の試合で、今までの努力を全否定された気がした。俺の努力に対しての見返りがゼロだ。あんなに頑張ったのに、なにがダメだったんだというんだ。
「そうだね……。練習いっぱいしたもんね」
「もう全然ダメだったよ」
「でも、また次あるじゃん!」
みなみは明るく振る舞ってくれる。
それでも、俺は試合のミスのシーンがフラッシュバックして、から元気を出すこともできなかった。
試合の終盤で、キーパーとの一対一のシーン。これ以上無い決定機に、俺はシュートを外した。
それさえ決まっていれば、延長戦に持ち込めたはずだ。もしかしたら、勝ってたかもしれない。あの時、俺が決めていれば......。焦って、強く蹴りすぎずに、冷静にコントロールできていれば……。
「あん時俺のシュートが決まってたらなー」
「そうだねー。ずっと放課後練習してたもんねー」
みなみの言う通りだ。俺は部活を一度もサボらなかったし。練習後の自主練も欠かさなかった。なのに、決定的な場面でミスをした。
「練習してたんだよ」
自分に言い聞かすように言った。俺は真面目に練習した。それだけは胸を張って言える。
「ずっと見てたから分かるよー。頑張ってたのは」
「うん……」
みなみに改めて言われると、より強く、俺は頑張ったと思えた。
けど、みなみはサッカー部のマネージャーでもないのに、なんで俺の努力を知っているんだ。
ずっと見ていた? どういうことだ? ただ見かけたとかじゃなく、俺を見ていた? みなみも部活しているのに?
「んーでも、まぁ仕方ないし……」
みなみは埒のあかない俺への励まし方に困っていた。
ここまでネガティブな返答しかしなかったら、そうなるよな、とさっきまでの自分の態度を猛省した。
すると、みなみは「なんか気分転換にどっか遊びにでも行く?」と俺の顔を覗き込みながら提案してきた。
「ん? えっ?」予想もしなかった、みなみの提案に思わず耳を疑った。「ど、どっか?」
「どっか……。あんまり2人で行ったことないし、2人でどっか行かない?」
「え? 2人で?」
2人でというワードが引っかかり、図らずも確認してしまった。
確かに、みなみと2人でどこか行ったか思い出そうにも、出てこなかった。何人かのグループでなら、買い物とかには行ったことがあったくらいだ。
「うん......。いやだ?」
みなみの声が小さくなった。さっきまで明るく振る舞っていてくれた分、余計に暗くなったように見えた。
「いや……」
思わぬみなみの反応に、言葉が詰まった。冷静を装って話そうにも、頭の整理が追いつかず、「え? え? 2人で?」としか言えなかった。
「だって、こんなに練習いっぱい頑張ったんだから、ちょっとくらいご褒美あってもいいんじゃない?」
みなみは俺へのご褒美と言ったが、みなみが自分自身に言い訳しているような気もした。みなみはもしかしたら、俺に気を使って、今まで遊びに誘うのを躊躇っていたのかもしれない。そうなると。もしかしたら、もしかするのかもしれない。
「え? 俺以外の男とかなしの――?」
「もちろん! 行かないよ他の人となんて!」
俺が再度2人きりかどうかを確認しようとすると、みなみは食い気味で否定した。さっきまでの表情とは一変、目も声も大きくして明らかに焦っていた。
これはワンチャンある。試合には負けたが、勝ち組になれる可能性がある。
「え? それ……。 えっ? ゲーセンとかじゃなくて?」
みなみの焦りが俺にも伝染した。あのみなみの言い方だと、恐らくゲーセンなんかのレベルじゃないと踏んで、あえて確認した。
この雰囲気で、「じゃあ、ゲーセンにでも行くか」と言ったら、せっかくのチャンスを逃す気しかしなかった。
試合でのチャンスを逃したが、ここでの千載一遇のチャンスは逃すわけにはいかないんだ。
試合にも負けて、みなみと付き合えるチャンスまでも逃したら、俺はもう当分立ち直れる気がしない。
「え.......、遊園地とかがいいなー......」
みなみは俺から顔を反らした。
もう9割は勝利の文字が見えている。2人きりで遊園地に行こうだなんて、こんなの脈アリでしかない。
「遊園地とか......」
一瞬確認するかどうか迷った。でも、もっと確信が欲しかった。そう思ったときには、「あっあの……、どうして?」と無意識に言っていた。
「なんか夢だったんだよねー」
みなみは空を見上げた。そして照れくさそうに、「そーゆう好きな人と遊園地とか行くの!」と言った。
「えっ、好きな人と遊園地行くのが...…、夢?」
理解するために復唱した。笑みが溢れて仕方がなかった。鏡はなくとも今の自分がどれだけのマヌケ面になっているかなんて明らかだった。
「そう、夢だったの」
みなみは俺の目を真っ直ぐ見て、惜しげもなく言った。
その表情は真剣だった。
みなみは俺と2人で遊園地に行きたいと言った。
好きな人と遊園地に行くのが夢、とみなみは言った。
その2つの点が繋がって線になった時、俺の心の中の勝利の鐘が鳴り響いた。
「えっ、て、てことは......」
勝利の喜びから俺は、心の声を抑えられなかった。
「え? えっ俺? 俺? え? 俺を好きってこと?」
「うん、だから、そう言ってるんじゃん!」
みなみはごまかすように早口で言った。
「じゃなきゃ遊園地行こうなんて言わないよ!」
みなみは恥ずかしさのあまりか、少し苛立っていた。目も半泣きで、駄々をこねる幼児のようだ。
「俺を好きなの......?」
その事実が嬉しくて堪らなくなった。この時間を思う存分噛み締めたくなって、俺は更に確認した。
「え、えっ……、どうして?」
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