透明な獣を追い詰める者は他にもいた、わたしには興味の無いことだが。ざっと数万はいると思う、よくは知らない。そいつらはそいつらで思うがままに行動をしているようだ。一度もすれ違ったことはなかった。おそらく途方も無く見当違いな方向を歩んでいるのだろう。


 まあ、わたしには関係の無いことだ。


 透明な獣はこの世界に一匹しか用意されていない。悪いがそいつを仕留めるのはわたしだ。他の誰にも渡しやしない。


 透明な獣を追う分母はけして減ることはなかった。寧ろ増加傾向にさえあるようだ。眩暈がする。今この瞬間にも追跡者は血眼になって獣を追い掛けているのだろう。


 いい加減、諦めれば良いのに。


 もしかしたらそれぞれにそう思っているのかもしれない。だとしたらそれは喜劇だろうか悲劇だろうか? 自分だけが特別で透明な獣を狩るに相応しい追跡者なのだと思い違いをしている。もはや笑えない。鏡を生まれてから一度も見たことのない人間がお姫様になりないとほざくようなものだ。現実は甘くはない。だが同情には値しない。自分で決めたことなのだ。誤った道を選んでしまってもこちらは涙を流してやる義理なんて無い。わたしに出来ることはと言えば、せめて少しでも早くそいつらの目を覚まさせてやるということぐらいだ。だが目的を失ってしまったそいつらが次に何をしでかすかはこのわたしにもわからない。


 透明な獣。


 それがわたしの視界の先にいた。他の誰でもない。わたしの視界だ。ゆっくりと辺りを見渡した。自分の他には人影は見当たらなかった。やはりわたしだけが手を伸ばせばその尻尾に手が届く距離にまで追い詰めている。


 わたしがやるしかない。それがわたしに与えられた使命なのだ。


 わたしは刃物を取り出しその先端を眺めた。


 機会は何度も訪れるものではない。一度、相手に危機感を与えてしまってはおそらく次はもっとわたしとの距離を離そうとするだろう。最初の機会が最後の機会になるかもしれなかった。


 わたしにはわかる。


 他の連中にはわからないだろうがわたしにはわかるのだ。


 ここで逃してしまったら次に獣が現れるのはずっと先のことになる。それまで待てない。我慢など出来ない。その時になってもまだわたしの胸の内に今ほどの欲望が残っているかどうかもわからない。


 確実に殺さなくてはならない。今この場で。だから慎重に、そして大胆に、その両方を使い分け心臓を一突きにしてやらなくてはならないのだ。







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