ファストフード店のカウンターで「七十五点」の業務をこなす従業員のおおぬきさんと、なぜか彼女に惹かれてふらりとコーヒーを飲みに訪れる「私」の、ふれあいとも言えないほどの、小さな日常を描いています。どんな人かも知らない、ましてや腹を割って話すなんて間柄には絶対にならない、従業員と客という距離感が保たれたまま、それでも私は、日々のなかで小さな波が立つとき、ふいに彼女に会いたくなるのです。七十五点、この微妙な点数が、彼女と私の一番ここちよい距離とも取れました。何もかも吐露し合うだけが本当の人間関係じゃなく、さりげなくいつもそこに居る安心感というのでしょうか。全部もたせかけるのではなく、でもどこか拠りどころとしてしまう、繊細な居心地の良さ。慌ただしい日常で見落としそうな心の機微を丁寧に描いてある作品です。
日常のテンポやリズムは、誰にでも無意識の内にある物だと思う。主人公にとって、コーヒーを飲みたくなることが、それだった。ある日、レジに並んでいると、レジの係りの女性アルバイトに、怒鳴る男性がいた。しかしそのアルバイトの女性は、完璧にその場をやり過ごすのだった。主人公はそのアルバイト女性の、接客にささやかに感心しする。彼女のネームプレートには「おおぬき」とあった。
しかし、それ以上の関係を築くことはしない。あくまでも、「おおぬきさん」はレジ係のアルバイト女性で、主人公は客の一人。例え「おおぬきさん」がその店を辞めてしまっても、主人公はこれからも、店にコーヒーを飲みに行くだろう。
主人公は店を辞めた「おおぬきさん」と、すれ違ったことがある。その時、主人公は……。
小さな出来事しか起きないのに、これだけの読み応えは、作者様ならでわ。
日常系小説の決定版的作品だ。
是非、御一読下さい。
昔、勤め先の裏にあったカフェに、めちゃめちゃ美人の店員さんがいたのを思い出しましたね……(お話と全く関係ない)
特に会話もないただの客と店員という関係性って何だか不思議ですよね。別に世間話すらしないドライな関係。でも、よくいくお店なんでお互い顔がわかってる。みたいな。
ぼくも昔よくお世話になってたお弁当屋さんの、笑顔が素敵な恰幅のいいおばちゃんが「ねもと」さんであったこと未だに覚えてますからね。
このお話はお客さん目線のお話だけど、店員さん側も同じようなことを思ってたりしますよね。「ごちそうさま」言ってくれるOLさんまた来た、的な。店員さんはお客さんの名前がわからないんで、勝手に名前つけてたりしますよね。(例:ミラーマン……お店に入るや、注文する前に必ずガラスに映った自分の髪型を整えることからついたあだ名)
今度は「おおぬき」さん視点の物語も見てみたくなりましたね。