【KAC3】シチェーションラブコメ
前回までのあらすじ!
魔界の悪いやつら(わらう)が、この世界との全面戦争を引き起こそうと暗躍しているらしい! でぶフクロウのキリフダは悪いやつらの悪い企みに魔法の力で対抗すべく、世界で一番つよい魔力を持つ志乃ちゃん(かわいい)に協力を求めてきた! しかし突如あらわれた、さらに巨大なでぶフクロウのジョーカーに志乃ちゃんはさらわれてしまう! 志乃ちゃんを取り戻すため、ついでに世界の平和を守るため、世界で二番目くらいにはつよい魔力を持っているらしいわたしは、キリフダと共に悪の総本山、イオンモール高崎へと向かった!!
というわけで、ジョーカーの後を追ってイオンモール高崎の一階フロアへと踏み込んだわたしは早速ザラへと足を運んだ!
「待て、沼田未希。なぜ迷わずザラに向かう」
「え、だって春の新作とかセール品とか気になるし、ザラ安いし」
え、だって田舎女子高生のわたしたちにとってはイオンモール高崎まで出てくるのですら結構な遠出だし、どうせなら一回で色々と用事は済ませておきたいじゃん? あ、もちろん志乃ちゃんも助けるよ? ちょっと、その顔やめて。
「ていうか、イオンモール高崎が悪の総本山なのは分かったけど、いや全然意味は分からないんだけどそれはいいとして、イオンモール高崎も広いじゃん? いや狭いんだけど、まあ広いわけじゃん? キリフダ、志乃ちゃんが捕まってそうな場所のアテはあるの?」
わたしがサササ~っとザラの新作を流し見ながら訊くと、キリフダは目を細めて「こういうのはだいたい親玉は奥のほうに控えているのがセオリーであろう。こんな一階フロアの入ってすぐのところではないとは思うが」と、なんかふわふわとしたことを言う。
「え~? 特にアテがないなら、下から順繰りに見ていけばいいんじゃない? それで目星つけておいて帰りは逆ルートで回りながら買うもの買えばいいじゃん」
なにしろ予算は限られていますからね。まずは一通り見て候補をピックアップしてから、厳選を重ねて悔いのないショッピングをしなければ。あ、このめっちゃフリンジついてる感じのトップスもかわいいな~自分で着る勇気はさすがにないけど。
「沼田未希。この世界の危機なのだぞ。もっと危機感を持ってだな」
「あ~うんうん。あ、見て。このへんのちょっとルーズなシルエットのワンピースとかもかわいくない? プリントが派手だけど春っぽいと言えば春っぽい」
とか、ザラの店内を見て回りながらキリフダとやいのやいの言ってたら、どこからか「フッフッフ……」と、いかにも悪役っぽい感じの笑い声が響いてきた。
「この声は……! さては、クラウンか!」
「いかにも!!」
見ると、ハンガーラックの上にこれまたフクフクとまんまるい感じのでぶなフクロウが一話とまってて、こちらを見下ろしているではないか!!
「フハハ! どうだ! ザラの春の新作コレクションから目が離せまい! 貴様たちはここで一生、素敵な春のコーディネートを求めてさまようことになるのだ!!」
なんと! もしやこれも敵の魔法てきな攻撃だったのか!? どうしよう! このままではこの春のトレンドが気になって気になって志乃ちゃんを助けに行くことができない!
「キリフダ! どうにかできないの!?」
なんかわたしも世界で二番目くらいには魔力が強いんでしょ? なんかこう、魔法てきな力でババババ~ッ! とやっつけて、とっとと次を見にいかないと。ギャップのセール品とかも気になるし。
「魔界のおしゃれ魔法には、同じくおしゃれ魔法で対抗するしかない! 沼田未希! 君のおしゃれパワーを見せつけてやれ!」
そんな……!! ウィゴーとジーユーとサンキューマートで全身コーデしている典型的な田舎女子高生のわたしには、おしゃれパワーなんて欠片もないぞ??
「さあ、くらえ! 春の新色! マリンストライプスプリングニット!!」
「や~ん! 肩ボタンがアクセントの青白ボーダーニットかわいい! 薄手のざっくり編みだから爽やかなこれからの季節にぴったり!!」
こ……これが魔界のおしゃれ魔法の力……!! わたしには到底勝ち目がない。いったいどうすれば……。と、おろおろウィンドウショッピングを楽しんでいると、不意に背後から「お手伝いして差し上げましょうか?」という声が!
「お、お前は……! 青木イスカンダール真美!?」
わたしが叫ぶと、イスカンダール真美は嘘くさい優雅な微笑みを浮かべて「奇遇ですわね」と、首を傾げる。
「ザラの春の新作程度に手こずるなんて、庶民の方って本当に大変でれぇs……ですのね」
噛んだ。また噛んでんじゃん。滑舌悪いんだから、その喋りにくそうなですわ喋りやめればいいのに。あ、ざっと説明をすると青木イスカンダール真美はわたしや志乃ちゃんと同じクラスの成金お嬢様で、二年くらい志乃ちゃんをねっとりストーキングし続けている真性のレズです。
「桐生さんはわたしが助け出しますわ。ファストファッションごときに手こずっているようなあなたの出る幕はなくってれよ、沼田さん」
だから噛んでるじゃん。なんかしれっとなんでもないような顔して流したけど、思いっきり噛んでんじゃんさ。まあいいや、なんとかしてくれるって言うのなら、ここはイスカンダール真美になんとかしてもらおう。
「フクロウよ、くらいなさい! レリアン・キャラ・オ・クルス・スプリングボーダーニット!」
なんということだ! ザラのニットと似たようなカジュアル路線の黒白のボーダーニットでありながらも素材感から漂う圧倒的な格の違い! 絶妙なシルエットのエレガンス! ショルダー部分にあしらわれた控えめなレースの切り替えがさり気なく大人っぽさを演出している! たかがカジュアルニットに25000円とは実に大人げない! 高崎では高島屋でしか手に入らないハイブランドの前にはザラの新作コレクションも一撃粉砕だ!
「な……なんだと~!!」と、フクロウのクラウンも明らかに狼狽している! いいぞ! 今だ! たたみかけろイスカンダール真美!
「いきますわよ! ミロワール・ドゥ・エンスウィート・クロッポど……クロッ……」あ、噛んだ。「ポ……ぷ、クロップドマリンワイドパパぁぁああ~~!!」
バーン! と、イスカンダール真美の身体がおもしろいくらい上にブチ飛ぶ。どうやら叫ぶときに噛むと逆に自分が吹き飛ぶルールらしい。なんだこのおしゃれ魔法バトル(素)
「ふはは! オシャレとは己を知り足るを知ること! 身の程をわきまえぬ小娘が金にものを言わせたところでオシャレには程遠いわ!!」
う~ん。やっぱり高島屋のハイブランドはまだ女子高生には早かったかぁ~。まあ、なんだかんだ言ってもイスカンダール真美も所詮は群馬の田舎女子高生だしね。
「では次はこちらからいくぞ! くらえ! ロールアップヘムキャロットフィットパンツ!」
うわぁ! ぶわっと膨らんだ田舎感溢れる野暮ったいシルエットが一周まわって逆にオシャレ! これは適当にブランドで固めただけの田舎女子高生はひとたまりもない!!
「うわ~!」と、イスカンダール真美はまたも派手にブチ飛ぶ。うう~ん、どうしよう。はやく志乃ちゃんを助けにいかないといけないのに、一向にザラから出られる気配がないぞ。
「でもぬかったねクラウン! 今のは大きなヒントになったよ!」
わたしはビシッ! と、でぶフクロウを指差す。
「なに!?」
オシャレとは己を知り足るを知ること。田舎女子高生が無理して背伸びしても結局は身につかないのだ。きっと、わたしにもできるはず。人を羨むのではなく、人の真似をするのでもなく、わたしの! わたしだけのおしゃれ魔法を使えるはず!
「これがわたしのおしゃれ魔法だ! くらえ! 中学時代から愛用してきたパステルカラー切り替えのスポルディングのランニングシューズ!」
「こ……これは! ピンクと水色という普通では考えられないダサいスニーカーのはずなのに自信満々で履かれると一周回ってオシャレな気がしてきてしまう! これが本当のダッドシューズ!! トレンドが……トレンドのほうが追いかけてきた!!」
今年の春はもっさい田舎女子高生っぽさが逆にアーバンなトレンドだ!
ドーン! と、わたしの魔法でクラウンが大きく吹き飛ぶ。
「く……くそ! いったん撤退だ! 覚えていろ!!」
捨て台詞を残してクラウンはバッサバッサとイオンモール高崎の奥へと飛び去っていってしまった。くそぅ、仕留めきれなかったか。
「大丈夫? イスカンダール真美」
なんかめっちゃ派手にブチ飛んでいたから普通にちょっと心配になって助け起こしにいったら、なんかイスカンダール真美がぐしゃぐしゃに泣いててちょっと引く。
「く……くやしい! わたしっていっつもそう! 練習では上手にできるのに、いつも一番大事なとろころでトチっちゃう!!」
うん、そうだね。今もやっぱ噛んでたしね。
「大丈夫だって。誰だって一度や二度の失敗ぐらいはあるものだよ。それに、そのクロップドマリンワイドパンツ、キャラオクルスのボーダーニットとも相性ばっちりで全体的なシルエットがとても綺麗だし」
そう言って手を差し出すと、イスカンダール真美はわたしの手を取り、なんかやたらキラキラとした瞳をこちらに向けて「沼田さん……あなた、優しいのね」と、呟く。
え、なにそのキラキラのエフェクト。ちょっと気持ち悪いから引っ込めてくんない?
「おそらくなのだが」と、すっかり空気になっていたキリフダが耳元でわたしに囁く。「今度は君が惚れられてしまったのでは?」
冗談じゃねぇ。
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