【KAC6】最後の3分間


 前回までのあらすじ!


 志乃ちゃんからの暗号(暗号でない)を解読したわたしたちは、志乃ちゃんと合流するため、イオンモール高崎開店5000日祭のスタンプを集めて特設イベント会場へと行くことになった! 各店舗でデュエルに勝利することでスタンプをみっつ集めるのだ! デュエルってなんだよ……。


 ということで、1Fのカウンターでスタンプカードを貰ったわたしとイスカンダール真美は、3Fイオンシネマで劇場版んティーんンターのチケットを買った!

「高校生料金がちょうど1000円だから、これでスタンプ一個ゲットだね!」

「それはいいのですけど、沼田さん。急がないと、あと三分ほどで劇場版んティーんンターの開演の時間ですわよ!」

「まあ、待ちなさい。そんなに急ぐもんじゃありませんよ」

 で、現在位置はイオンシネマの中の女子トイレの個室で、わたしは排便チャレンジ中です。「ただでさえ排便の波は貴重だし、いま出し切っておかないと劇場版んティーんンターの上映時間中に催すことにもなりかねないからね。ここは落ち着いて、真摯に全力で取り組まなくては」

 排便、それは己との戦い。すなわちデュエル。なるほど、志乃ちゃんのメッセージにあったデュエルとはこのことだったのか。

「見てろよイスカンダール真美! 開演までの三分間で、かならず根こそぎ絞り出してくれる!!」

「いや、さすがのわたしでも沼田さんの排便シーンにまでは付き合っていられませんわよ」

 うん、そりゃそうだよね。イスカンダール真美はマジで志乃ちゃんが排便しているとき以外はず~っと志乃ちゃんをつけ回している感じだったけど、さすがにイスカンダール真美でも排便の間くらいは志乃ちゃんをつけ回すの遠慮してたもんね。だから、わたしのことは気にせず先に行ってていいよ。

「ペットをひとりで放置するわけにもいきませんし、わたしはあのフクロウと一緒にロビーで待ってますからね。沼田さん、あと三分ですわよ」

 え? いや、キリフダは別にわたしのペットってわけじゃないんだけど、勝手に志乃ちゃんの肩にくっついてきて、そのあと成り行きでなんとなく一緒にいるだけで。わたしは嫌だよフクロウ飼うのとか、あいつら、なんか虫🐛とかネズミとか食べるんでしょ? 大変そう。

 で、扉の向こうからイスカンダール真美の気配も消えて、ひとりになったわたしはこの狭い個室の中で、己の小宇宙と向き合う。必ずこの戦いに勝利し、生きて帰る。待っていてくれ、劇場版んティーんンター。残り三分……いくぞ、お前たち……!!

 どうだ直腸? やれるか?

 こちら直腸! 大便装填準備完了! 装填を開始します!

 よし、内肛門括約筋。そちらに大便がいくぞ。

 こちら内肛門括約筋! 大便の装填を確認した! ゲートを解放する!

 こちら横紋筋! 大便のローディングを開始! 充填率20……40……間もなくローディング完了!

 全身! 射出に備え前傾姿勢をとれ! 腹筋! いきみ準備!

 こちら腹筋! いきみ準備に入ります!!

 充填率100パーセント! ローディング完了しました! 射出いつでもいけます!!

 よーしいくぞ~~と、今まさにズバーンと排便しようとしたところで、うえから「フハハ! 上がガラ空きだぞ小娘!!」と声を掛けられて「ひえっ!!」と、普通にめちゃくちゃびっくりする。で、見上げるとトイレの個室の扉のうえにデブフクロウが留まってて、こっちを見下ろしている。

「さっきはラッキーおしゃれパンチで遅れをとったが、さすがの貴様も排便中ではどうしようもあるまい! おしゃれ要素の欠片もない無様なポーズだな!! さあイングの春の新作コレクションを喰らえ!」

 いや、たしかにボーイフレンドサイズのちょいデカめジージャンとかかわいいし、暑かったり肌寒かったりが激しいこれからの季節、調整しやすいアウターは使い勝手がよさそうだけど、ていうか、いくらフクロウでも女子トイレまで追いかけてくるのはさすがにないんじゃない? 君らいちおう、オスっぽい感じだよね?

「ハハハ! どうだ? 明るい色味のマキシスカートにスニーカーを合わせてボーイッシュ感とフェミニン感の中間を狙うもよし! ガーリーなニットワンピの上に無造作に羽織ってざっくり感を演出するもよしの優れモノだ! しかも、定価の時点で4900円とお財布にやさしいのに、それが今ならスプリングセールでさらに30パーセントオフだぞ!!」

 や、分かる。分かるけど。たしかにイングのジージャンは強いんだけどさ。そうじゃなくて。イスカンダール真美ですら志乃ちゃんが排便してる時くらいは遠慮するくらいの分別があったぞ? お前、本当にいいのかそれで? わたしはいま、排便中なんだぞ??

「ザラなど軽めの様子見のジャブに過ぎん! まだまだあるぞ! さあ、イオンモール高崎の真のオシャレパワーの前に屈するがいい」

 だからそうじゃなくてさぁ~~~!!

「いまわたしはそれどころじゃねぇんだよ~~!!」 

 って叫んだ拍子に、あっ! (ブブブブブブブブブッ!!)

 

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