【KAC4】紙とペンと女子高生てきステータスアイテム


 前回までのあらすじ!


 ジョーカーの放つ春の新作おしゃれ魔法の力でなすすべもなくザラに釘付けにされてしまったわたし! しかし、そこに現れた青木イスカンダール真美(志乃ちゃんのストーカーのガチレズ)の助けはとくに関係なく、中学時代から愛用していたスポルディングのダサ路線スニーカーが一周回っておしゃれっぽくて辛くも勝利したわたしは、イスカンダール真美と共に(なぜ?)次のお店へと向かった!



「というわけで、やってきました無印良品です」

「待て、沼田未希。なぜ迷わず無印良品なのだ? なにかアテがあるのか?」

 フクロウのくせに(フクロウだよね?)チベットスナギツネみたいな目でこっちを見てくるキリフダに、わたしは「ご存知ないのですか!?」と、説明する。

「無印良品と言えば今や日本発のイッチョマエのハイブランドの一角! アパレルや食品はやたらオーガニックだったり地球に優しいリサイクル素材だったりロハスだったりでちょっとお高いイメージがありますが、しかし、ステーショナリーに関しては意外と妥当なお値段でちょっと妥当にオシャレ風味なものがある、ちょっと背伸びしたい貧乏女子高生にうってつけのお店なのですよ!」

 学校指定の制服と学校指定のバッグに学校指定のローファーと、画一的に均質化されてしまっている女子高生にとっては文房具は数少ない自分の個性をアピールできる要素! サラリーマンのおじさんがキャバクラでお姉ちゃんに見せびらかすためのロレックスや、サルバトーレ・フェラガモの革靴のようなものなのです! まあ、時計にたとえるなら、無印良品はランクてきにはさしずめグランドセイコーってところですかね? そこそこ見た目もかっこよくて、値段も手ごろで、すごくいいわけでもないけれども少なくともダサいイメージはないみたいな、無難・オブ・ザ・無難って感じのアレですよ。

「いや、我はそういうことを訊いているのではなく」

 うん、まあキリフダの言いたいことも分からないではないんだけれど、とは言ってもどっちみち今のところ手がかりもないんだから、まずは順当に見たいお店から見て回ってればよくない? 闇雲に探してどうにかなるものでもなし。

「なるほど。庶民のみなさんはこういったところで文房具をお買い求めになるのでうsね」

 イスカンダール真美のこの流れるような滑らかさで噛むやつは、むしろそれはそれでひとつそういうスキルっぽい感じがある。ちなみにイスカンダール真美が使っているペンはラミーの伊勢丹新宿本店でしか手に入らないホワイト地にクリップ部分だけがメタリックレッドの日本限定色モデル¥4,000-である。いちおうポップ路線だし、無駄にモンブランとかのガチ高級ステーショナリーにいかないあたり、女子高生が使ってても嫌味ではない上限ラインをきちんと見極めてるっぽさがあって、オシャレ上級者ではある。噛むけど。

「うーん、でもまあ、わたしが使ってる無印のステーショナリーっていうと、せいぜい木軸のシャーペンくらいかなぁ。えんぴつっぽくてかわいいし、握った感じのタッチも柔らかくて疲れにくいし、なにより安いんだよね」

 貧乏女子高生てきにはシャーペン一本に500円以上はわりと厳しいので、ギリ200円代に抑えてきているのはお財布事情を分かってやがるなって思う。

「あとまあ、ノートも普通の大学ノートよりは無印のやつのほうがかわいいけど、でも最近はもっぱらルーズリーフ使ってるしね」

 紙は無印のやつも書き味もけっこういいし値段も妥当でいい感じなんだけど、バインダーはあんまり調子いいのなくて、わたしが使ってるのはコクヨのキャンパスバインダー。これはリングノートみたいにくるっと折り返すことができるので、学校のクッソ狭い机の上でも取り回しが良いのです。ただの透明なプラスチックだし無難な色しかないからデフォでオシャレではないんだけど、まあバインダーなんかシールとかステッカーで手軽にオリジナル感出せるし。

「コ……ちょっと待ってくださる? コクヨのキャンパスバインダーですわね?」

 イスカンダール真美はわたしの話を聞いて、すかさず紙とペン(限定色¥4000-)でメモをとっている。うん、その勉強熱心なところはいいと思うけど、そんな真似っこしなくても、文房具くらい自分のセンスで自分の好きなもの使えばいいと思うよ?

「か……勘違いなさらないでくださる!? 庶民のかたがどのような文房具を使っているのかにすこし興味が湧いただけでえれすわ!!」

「あそう? まあ別にいいんだけど。じゃあ興味ついでに教えておくと、ラインマーカーはゼブラのマイルドライナーってやつが、あんまり蛍光マーカー! って感じの色じゃなくて彩度低めのパステルカラーだからオススメ。これ使ってると普通の蛍光色マーカーはすごく目立つから、本当に重要なところにだけ蛍光色使ったりとかで上手く使い分けると見やすいし」

「ゼブラのマイルドライナーですわね。ブックマークしましたわ」

「あと三菱のクルトガのシリーズもたまに妙にかわいいカラー出たりするし、普通に使い心地もいいからおすすめ。無印だと、ノック式の蛍光マーカーは授業中とかにパッと使うのに便利いいね。キャップどっかいったりしないし」

 そんな話をしながら無印の文房具コーナーをぱ~っと見て回って「わ~組み合わせが選べるボールペンだって~、水色とかもあるじゃんかわいい~」と、一本手に取って試し書きしてみようとしたところで、それがわたしの目に留まった。

「ん?」

「どうしましたの? 沼田さん」

 ペンコーナーの手前に用意されている試し書きエリアの、多種多様な色で自由奔放に書きなぐられた様々なグルグル線の中に、わたし宛のメッセージを見つけたのだ。

「え? これ、字ですの?」

「うん。このミミズがのたくったみたいなやたら汚い字は志乃ちゃんのもので間違いないよ」

 わたしですら、一瞬ただの試し書きのぐちゃぐちゃの線かと思ってしまったけど、これは字ですね。こんな汚い字、オンリーワンすぎて真似しようとしても真似できるものではないと思う。綺麗な字は頑張れば真似もできそうだけど、汚さを模倣するのって綺麗に書くより難しいよね。

「それで……このぐちゃぐちゃの線にしか見えないこれは、なんと書いてあるんdえすの?」


 と、文房具の話をしているだけで、気付いたら既に規定の文字数をクリアしていたので、ここで次回のお題待ちで引きです。

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