【KAC9】おめでとう


 前回までのあらすじ!


 イオンモール高崎開店5000日祭記念イベントのやつだと思って集めていたスタンプカードが、実はイオンコート高崎駅前開店三周年記念イベントのほうのやつだった!! わたしとイスカンダール真美はでぶフクロウのキリフダを連れ、今度こそ志乃ちゃんと合流するため、高崎駅前行の関越交通バスに乗り込んだ!!


「実はイオンモール高崎はイオンモール高崎って名前だけど、インターチェンジで言うと前橋の真横で高崎駅からはかなり遠いぞ!!」

「千葉県にある東京ディズニーランドみたいですわね」

「そして、一歩イオンモールから離れてしまうと、あとは道! コンビニ! ラーメン屋! コンビニ! ケンタッキー! コンビニ! コンビニ! みたいな感じの、なんかいろいろあるっちゃあるけど実際のところ虚無が空間を埋めているだけ! みたいな街並みが続くぞ!!」

「本当の田舎は『なにもない』がありますものね。本当になにもなければ、それはそれでひとつのアドバンテージですから、こういうなにかがあると言えばあるんだけれど強いてアピールするほどのものはなにもない郊外こそが真の虚無ですわ」

「高崎駅の本当に間近までひたすらこの虚無な風景が広がっているぞ!」

「あら、やっと高崎駅が見えてまいりましたわ。駅周辺はさすがに高層建築が密集していて多少の都会っぽさがありますけれど、まあぐるっと歩いて回れる程度の本当に小さな範囲だけですわね」

「虚無は押し寄せてくるからね! ウイルスみたいなものだよ! 都市もどんどん削られるよ!!」

「さて、高崎駅に到着いたしましたわ。沼田さん、さっそく高崎オーパに向かいますわよ」

「ショボくてしみったれた中高年以上向けのデパートメント高島屋しかなかった高崎駅前に新たな誕生したウィゴーや靴下屋やプラザなど、女子中学生御用達のショップがたくさん入ったカジュアル路線の若者向け複合商業施設だぞ!」

 高崎駅のロータリーでバスから降りて陸橋にのぼって、そのまま高崎オーパに行けるから、入るときはだいたい2Fからが多いんだけど、目指すイオンコート高崎駅前は1Fフロアだから店内に入ってからエスカレーターでもう一回下に下る。

「いま見たらイオンコート高崎駅前ではなくイオンスタイル高崎と書いていますわね。ややこしいし違いが分かりませんけれど、要は生鮮食料品売り場ですわ」

「普通にスーパーマーケットだね!」

 の、はずなんだけど、エスカレーターを下りるとなんだか様子がおかしい。普段ならこの時間でもそこそこにはお客さんで賑わっているはずなのに、人の気配が全然ないし、例の「スーパーマーケット!」って感じの店内BGMも流れてない。すごく静かだ。

「来ましたね、沼田さん」

 そう声がして、バッ! と顔を向けると、左肩にクソデカいフクロウを乗せた志乃ちゃんがいる。

「あ、志乃ちゃん。よかった、やっぱ普通に無事だったんだね。やっと合流できた」

 言って、わたしは笑顔をつくる。でもなんか、志乃ちゃんの表情はかたい。ん? どうしたの?

「おめでとう、沼田さん。あなたは見事、試練を乗り越えてこのイオンスタイル高崎駅前に到達した」

 試練? 試練ってあのスタンプラリーのことか? まあ劇場版んティーんンターを観たり(観てない)スタバでお茶したりヴィレヴァン寄ったりで、わりとイオンモール高崎を満喫して満足度は高いけど、そうか、あれが試練か。まあ乗り越えたかも?

「試練を乗り越えることで、沼田さんのこの世界で二番目くらいには強い魔法少女として立派に成長した。沼田さんとわたしが力を合わせれば、この高崎をイオンモールで埋め尽くすことも夢ではない」

 ええ……、いやまあイオンモール高崎はわりと好きといえば好きだけど、そんな高崎全土をイオンモール高崎で埋め尽くしたいほどかっていうと、そうでもないよ?

「沼田さんも見たでしょう! イオンモール高崎から高崎駅までの間に広がる、あの真の虚無を! あのしみったれた骨董品のようなデパートの高島屋を! イオンスタイル高崎駅前などという御大層な名前がついていながら、その実ただの生鮮食料品売り場でしかない、この高崎駅前の惨状を! このままではじきにこの高崎駅前も、あの虚無に呑まれてコンビニとラーメン屋とマクドナルドが等間隔で並ぶだけの、ただの道になってしまいます! 高崎を救うには、高崎をイオンモール高崎で埋め尽くすしかないのです! さあ、沼田さん! わたしと共に高崎を救いましょう!」

「そうはさせまsんwあよ桐生さん!!!………せんわyぉ、せんわよ……」

 ビシッ! と志乃ちゃんに指をつきつけて、イスカンダール真美が言う。言い直しても噛む。

「あなたは……そうか、救世の英雄イスカンダールの末裔なのね」

「桐生さん、強力な魔力を持つあなたは、いつかこの高崎に牙を剥くと思っていましたわ。それで、ずっとマークしていたのよ」

 あ、イスカンダール真美ってガチレズだから志乃ちゃんをしつこくストーキングしてたわけじゃなくて、なんか理由があってストーキングしてたんだ?

「高崎をイオンモール高崎で埋め尽くされるわけにはいかない! 高崎駅前の覇権を握るのは高島屋ですわ! 桐生志乃! あなたの野望はここでわたsいがとmえるy!!」

「黴の生えたしみったれたデパートメントストアなどに興味はありません! あなたこそが高崎に巣食う邪悪の根源! 真に高崎を救うのはイオンモール高崎です!」

 わ~! なんかデュエルの予感がするけど、すげ~どっちでもいい!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る