3周年の例のアレ

大澤めぐみ

【KAC1】切り札はフクロウ

 真面目を拗らせ過ぎてて、むしろ真面目というよりもギャグ漫画の領域に入っちゃってるレベルの箱入りお嬢様な志乃ちゃんが、めずらしく待ち合わせの時間になっても来なかったので、なにかあったのかと心配していたら40分遅れですっかり憔悴しきった面持ちで駆け足で息を切らせて左肩にフクロウを乗せてやってきた。

「すみません、お待たせしました沼田さん。道すがら、いきなり謎のフクロウに謎に懐かれてしまいまして」

 うん、フクロウだね。フクロウだと思う。フクロウにしては随分とフクフクとまんまるい気がしないでもないけれど、まだフクロウの範疇だろう。仮にフクロウじゃないとしたらなんなのかと訊かれてしまうと返答にこまってしまうのでフクロウってことにしておきたい。ていうか、なんでまたフクロウ? と、わたしは頭を抱える。

「分かりません。なんかいきなり飛んできて、追い払おうとしたんですけれども、すっかり懐かれてしまって……。追い払うのは諦めて、とにかく沼田さんと合流しようかと」

 それで左肩にフクロウを乗せての登場ってわけ。うん、その判断じたいは極めてまっとうだとは思うけど、そもそも友達との待ち合わせに向かおうとしたら、道すがらいきなり謎のフクロウに謎に懐かれてしまうあたりが志乃ちゃんだなぁって感じはするし、志乃ちゃんのザ・お嬢様ファッション! って感じの服装にも微妙にマッチしちゃってる感じがかろうじてしないこともない。ハーマイオニーみたいでかわいいね! いや、現代の日本で肩にフクロウはさすがにないわ。いやまあ、志乃ちゃんも好きで謎のフクロウに謎に懐かれたわけではないみたいではあるが。なんていうか、志乃ちゃんはそういう星の人なのだ。不条理系というか、理不尽系というか、ギャグ漫画体質というか。

「天然もそこまでいくと、もう完全にミラクルだよね? は? なんでフクロウ? フクロウってそんな道すがら謎にいきなり懐いてきたりするもの?」

 志乃ちゃんは本当に天然で、トイレから出てきたらスカートが完全にパンツの中に入っちゃっててパンツ丸出しで傍で見ているわたしたちのほうが慌てちゃうとかそういうことがよくあるんだけど、まあそれもよくある時点でどうかとは思うんだけど、そうは言っても待ち合わせに左肩にフクロウを乗せて登場するのはいくらなんでもやりすぎって感じがそこはかとなくしなくもない。なんだ、フクロウって。ていうか、フクロウだよね? これ。とか考えながらマジマジとフクフクまんまるいフクロウをジーッと見つめていたら、いきなりフクロウが低めのイケボで「我が名はキリフダ」とか喋るから普通にびっくりする。

「え? なにこのフクロウ、喋るの?」

 わたしがびっくりして志乃ちゃんに訊くと、志乃ちゃんもびっくりした顔で「そのようですね」とか言う。

「契約は成った。少女たちよ、世界を救うために我に力を貸してほしい」

 フクロウはCV:大塚明夫って感じの声(イケボ)で勝手に喋るんだけど、待って。普通にいろいろと何段階かすっ飛ばしていると思うし、なんだよ契約って。女子高生相手にマルチまがい商法か? わたしら言っとくけど普通に女子高生だし、わりとお金ないよ? いきなり世界を救うとか、いたって平均的な女子高生ふたり(片方は異常なくらいのギャグ漫画体質ではあるが)をつかまえて始めるには、いくらなんでも話がデカすぎるし、その前に自己紹介とかいろいろあるだろ。

「え、なに? ていうかキリフダって名前なの?」

 どこから始めていいのかよく分からないので、とりあえずのさしあたりでそう訊くと、フクロウは首肯して「左様。我が名はキリフダ」と、また言う。

「キリフダとはカードゲームにおいて、もっとも強いカードのこと。我が我が主から頂いた誉れ高き名だ」

 なるほど。切り札はフクロウってわけ。はい、お題クリア。って、アホか。

「あのさぁ。いきなり現れて世界を救うために力を貸してほしいって、自分で言ってて説明不足だな~とか思ったりしない? 人に協力を求めたいならもうちょっとなんかいろいろとあると思うんだけど」

 わたしがなるべく憤慨をアピールして腕を組んで胸を反らせてそう言うと、フクロウは一度スッと顔を伏せた後で「その点は我も申し訳ないと思っている」と言う。ていうか、マジでイケボだなこのフクロウ。耳が幸せだわ。

「だが、いかんせん、我にもフクロウである我の名がキリフダであることと、君たちが世界を救う使命を帯びていること以外には、まだなにも分からないのだ」

 あ、やっぱフクロウなんだ。フクロウかな? とは思ったけど、フクロウにしてはずいぶんフクフクとまんまるいし、わりとギリのラインかな~? って感じだったんだけど、いちおう本人の自認としてもフクロウではあるらしい。ていうか、そうじゃなくて。

「まだ? まだってどういうこと?」

 わたしが訊くと、フクロウは目をスッと細めて、厳かに言う。(イケボで)

「天上の大いなる力によって、次のお題が発表されるのは3月11日だ。そのお題によって、君たちふたりの運命は決まる」

 え? なに? 切り札はフクロウをクリア(クリアか?)したものの、そろそろ2000文字くらいはきちゃったし、残りの文字数でどうやってオチつけるのかな~って思ってたんだけど、これ、まだ続くの?

「どうやら単発の掌編ではなく、次々と出されるお題を取り込みながら続く全10回の連作掌編にしようって思いつきのようですね……」

 普段は滅多なことににこやかな笑顔を崩さない志乃ちゃんまで、頭を抱えて渋い表情をしている。ほんとアイツはロクなこと考えないな。

「ルールを提示されたら、まず抜け穴を探るのはモモモの宿命だ(イケボ)」

 え、次のお題が巨大ロボットとかだったらどうするつもりなんだ。わたしは嫌だぞ、巨大ロボットに乗って怪獣と戦うとか。


 というわけで、すべてが謎のまま、投げっぱなしで次回に続きます。


 え? 続くの? マジで??

 

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