宇宙から帰ってきたのは彼(パートナー)自身ではなく、彼の記憶と人格を全て引き継いだ銀色の球体だった。だから彼は人間の身体を持たない。思いやりの言葉をかけてくれることはあっても、抱きしめてくれることはない。これは「小説」と「読者」の関係に似ている。小説はどこまでも甘く、優しく、言葉で私たちを慰め、寄り添ってくれる。でも辛いとき、私たちの手を握ってくれたり、悲しいとき、背中をさすってくれることはない。そんな切なさが詰まった、名作短編SFです。
硬質な題材と相反するような、エモーションにあふれた物語。短いながらも、よくまとまっています。
極度に発達した科学は魔法と区別がつかないと言うように、限界まで本人に近づけられた機械の意思は果たして本人足り得るのだろうか、そういった心の有りどころとは、機械の持つ意思とは、人がどこまでその形を変えても「人」で有り続けられるのか、逆に身近な人がそうなってしまったとき、元の「人」として愛し続けることができるのか。SFだからこそのテーマで書き上げられた純愛にして悲恋だと思います。
死にゆくトムが僕を作ったのはなぜなのか。僕はなぜ存在するのか。なぜ僕は会ったのか。カスミの心情の変化。会ってしまったがゆえに変わっていく「二人」の関係。会ったはずなのに、会ったはずなのに。そして最後。僕はこのために生まれ、会ったのか。なかなかに解釈が難しいので(私の場合1月に出会って4月に解釈が完成しました)コメント欄の感想を読みながら解釈すると楽しいと思います。
主人公トムは宇宙で命を落とすが、人型ではなく銀色の球体に姿を変えて恋人カスミの元に戻る。それでもカスミは喜ぶが……という導入から始まる物語。二人の関係が徐々に変化していく過程が悲しくも美しく、心打つものがある。愛情、というものをこんなに短時間で考えさせられる作品は珍しいと思います。