十一

 県域AMラジオ局の初回生放送本番。何だろう、緊張していないつもりなのに、マイクを前にしてイヤホンを耳に入れると、マイクテストの段階で自身の声が震えているのがわかった。緊張していないのではなく、緊張するシーンがこれまでの人生になかっただけだ。これを緊張というのかと、辞書だけではわからない言葉の意味を実感しながら二時間の生放送が始まった。途中途中にイヤホンから苛立つディレクターの声が聞こえる。耳の中に、自分の中に、自分の声にさえ違和感があるのに、他人の声なんてさらに嫌悪感がプラスされる。

 普段、俯瞰して生きているからか、自身の失敗も他人事にして、まずまずの番組初回を終えた。何を喋ったかは全く覚えていないが、達成感という言葉も体感出来た気がした。

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