退屈だからこその本質

何年か越しの再読でした。
当時、読み終えたあとのあの不穏な読後感はなんだったのか……数年の時を経た今、少しずつ飲み込めるようになってきました。
小説とは自身の切り売りである、とはよく言われる言葉ですね。自分も素人ながら小説執筆をかじっている身で、何作か書いているうちにたびたび不可思議な現象に出会うことがあります。単なる資料の読み込みや過去の人生経験だけでは説明出来ない、「自分そのもの」を表現している、という奇妙な体験です。

非常に勝手な解釈ながら、御作から滲み出る感情の仕組みは今の作者様でも説明出来ないものがあるのではないでしょうか。それほどこの小説が刹那的で、怪作であり、傑作であると感じました。

幻想小説と位置づけることにも納得がいくのですが、描写の一つ一つには現実とは引き離せないリアリティがあります。だからこそ読者の心をえぐるのでしょう。
詳しい内容にはあえて触れておりません。読み手を選ぶ内容ですが、冒頭を読んで琴線に触れるようであれば是非最後まで目を通してみてください。

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