主人公の雄馬くんは、両親の諍いとそれを幼い妹に見せたくない、という家庭内の精神的圧迫感と、転勤族の父親のために各地を転々としたところから、「自分」というものが非常に不安定です。
一少年には苦しすぎる現実をたった一つ救ってくれるのが、「野球」。
それですらも、物語冒頭は控えのピッチャーで自分を「みそっかす」だと感じていた雄馬くんの前に、一人のおじさんが現れます。
自分を導く、野球の指導者として。
たった一人の人物、そしてたったの一球によって、それまでよりどころなくさまよっていた孤独な少年の魂が、「居場所」を見つける素敵な物語です。
読む前は、巨人の星っぽいスポ根かな?と思っていました。
読み進めていくうちに、これはスポ根ではなく、人情味あふれる文学なんだなという認識に変わりました。
この作者は、言葉の使い方がうまいなと思いました。特に最後の富山弁をしゃべるシーン。僕も富山に住んでいたことがあるのですが、感動する場面なのにおかしみが入って、泣き笑いしてました。
鬱屈した小学生が、野球を通じて成長する。
おっさんの立ち位置は、主人公が野球を逃げ場から純粋な面白さを見出すための場所にするための重要な鍵であったと。
最後、親が息子を一心不乱に応援しているのを見て、主人公だけでなく、周りの環境も変えていったのだと胸が熱くなりました。