私はこの秀逸な幻想小説の一読を勧める。しかし娯楽性は保証しない。

 Web小説には二種類ある。娯楽小説か否かだ。
 もちろんこれは詭弁だが、しかしこの詭弁に従うならば、この「退屈な午後」は確実に後者に分類されるだろう。

 本作に安寧はない。幸福はない。ただ、語り手たる「私」が倦んだ調子で退屈を噛み殺している。奇妙に歪んで捻じ曲がった日常の中で、彼女は子供を求め、セックスを拒絶し、市役所で堕胎された胎児を貰いに行く。

 作中に登場するキャラクタは、どれも示唆に富んでおり、その歪みは嫌にリアリティのある重みを持っている。まるで読者の心の歪みを映しとったかのようである。
 そして、歪んだ舞台と物語を絶妙な境界線で成立させているのが作者の繊細な文章力であり、それ故、この小説は幻想小説と評されてしかるべきだ。

 この小説の閲読を推奨するにあたり、私は娯楽性を保証しない。健全な精神性を保証しない。読後感の良さを保証しない。
 だがしかし、もしも貴方が人生という日常の連続性において、広大な社会における身の置き所に難儀し、他者との交流に窮し、自身の心を持て余してしまうことがあるならば、この小説が貴方の一助になりうるという可能性を提示する。

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