人類滅亡後の世界、人間に代わって栄華を極めた情報生命体が、人類の行っていた『年越し』という行事を再現するお話。
主人公に目的らしい目的がない、というか、実質的に手段そのものが目的になっているのが興味深いところです。
一応、大きな動機というか、「人類の行動を模倣し理解する(ことで人類を超越する)」という目的はあるのですけれど。でもやっていることはただ手順を形式的になぞるだけ、という、その虚無感というか徒労感というか、その生み出す面白味がこのお話の核だと思います。
要はある種の滑稽劇、と、そのつもりで読み進めていたのですが。
その先に待ち受けていた帰着点、終盤付近の展開がもう最高に好きです。
もともと何もなかったはずのところに、確かに〝何か〟が生まれた瞬間。そして、文字を通してそれを実感できること。約束された崩壊と、そこまでの『無駄な作業』の意味するもの。とても美しくて、なんだか心に染み入るようでした。
ざっと流し読みして会話文がないからと言ってブラウザバックしてはいけない。
一見硬派なSFに見えて、ところどころの比喩や言い回しにくすっと出来る、不思議な読み味の作品です。
内容は情報生命体が『年越し』を再現するというお話。よく分かりませんか?読めば分かる。
突然ですが、動物番組に愛玩動物の行動に独特の解釈でアテレコを付けたコーナーがありますよね。
飼い主を探す犬に「うわ~ん、ご主人様、どこに行っちゃったわ~ん?」とか、餌を食べる猫に「やっぱりエサは生魚に限るにゃ~ん」とか台詞を吹き込んでいるあれです。
あれは放送作家の方が真面目に生活のために犬や猫の気持ちになって考えているのだと僕は思うのですが、もし犬や猫が人語を介するとすれば「全然違えよ!!」って言うんじゃないかと思います。
でも多分人語を介する犬や猫もずっとそれを見ていたら、それはもうそういうものとして一周回って楽しめてきちゃうはずです。人間から見た自分たちを客観視するというか。
視点を変えればもしかすると動物のほうも地球人を見てアテレコをつけてるかもしれません。遅刻しそうに走っている地球人に「今日は楽しい気分だヒト~(語尾)」って台詞を吹き込んでたりするんじゃないかなって。
このお話はそういう違った視点からのズレを楽しめる作品だと思います。
僕はとても好きだったので、これを読んだあなたも「気に入ったでヒト」って言ってくれると嬉しいです。