なんの変哲もない年越しを、人類滅亡後の世界で

人類滅亡後の世界、人間に代わって栄華を極めた情報生命体が、人類の行っていた『年越し』という行事を再現するお話。
主人公に目的らしい目的がない、というか、実質的に手段そのものが目的になっているのが興味深いところです。
一応、大きな動機というか、「人類の行動を模倣し理解する(ことで人類を超越する)」という目的はあるのですけれど。でもやっていることはただ手順を形式的になぞるだけ、という、その虚無感というか徒労感というか、その生み出す面白味がこのお話の核だと思います。
要はある種の滑稽劇、と、そのつもりで読み進めていたのですが。
その先に待ち受けていた帰着点、終盤付近の展開がもう最高に好きです。
もともと何もなかったはずのところに、確かに〝何か〟が生まれた瞬間。そして、文字を通してそれを実感できること。約束された崩壊と、そこまでの『無駄な作業』の意味するもの。とても美しくて、なんだか心に染み入るようでした。

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