第7話刈り取る者

 7:刈り取る者

 ザーザーと雨が降る、止むこともなく途切れることも無く雨が降る。暗い店内にはランプのぼうっとした明かりのみがある、時折ゴロゴロと遠くで雷の鳴る音が聞こえる。

 そんな温かみのある寂しさが店内を支配していた。


「よ、邪魔するぜ」

「こんな雨の日にご苦労様ですね。いらっしゃいませ、ゆったりとしていってくださいね」

「いつもその挨拶だけはかかさねーな」

「そうですね。とりあえずお上がりくださいな、そのままでは濡れてしまいます」

「おう、すまんな、310数年ぶりか?」

「それくらいだったかと」

 そう言ってミズは黒いフードを被った男を店内に上げる、フードの男は持っていた鎌を店の入口に立てかけて店内にある椅子に座った。

 男が座った辺りでミズが店の奥から2杯のお茶とタオルを持って戻ってきた、男にそれらを渡しお茶をちびりと飲んで話しかける。

「最近はどうですか?」

「ははっ、今はここ、暗がりの世界勤務さ。ここは地球のある世界と違って死人が殆ど居なくて楽なもんだぜ」

「やっぱりここは暗がりの世界でしたか、死神さんもこの世界だと仕事はやりやすいでしょう」

「あぁ、死人が出るのが2年に1人くらいだからな、それに姿を見られないで済むのがやっぱり楽だな」

「ふふっ、昔と違ってだいぶ落ち着いたようですね」

「昔の話は出すなよ、もう絶対にここで俺は暴れないさ。魂ごと消しさられるのがマシと思うようなことはゴメンだからな」

「そうして貰えると私も嬉しいです」

「それにここの茶はやっぱりうめぇ、せっかく来れたんだから200頼むわ」

 そう言って「死神」は空になった湯呑みをミズに渡す、ミズは死神に頼まれたものを取りに店の奥へと消える、死神は暗い店内で所々うっすらと光を発している棚を見て回る。白い綿のようなものが入っている瓶に、金の葉と銀の実を持つ木の置物、軽いがとても分厚い生地のコートに、中が紫の液体で満たされているゴブレットや、めくればめくるだけページの増える手帳、どれも死神にとっては見慣れた懐かしものであり、いつか何か一つでも買うべくお金を貯めている原因だったりもする。

 ふぁさりと暖簾をくぐる音が聞こえ、ミズが店の奥から戻ってきた、ミズは辞書くらいのサイズの箱と布に包まれた物を手に持っていた。

「まず200ね、現物確認してみてちょうだい」

「分かったよ…………大丈夫だ、きっちり200だ」

「請求は本部の方にしておくからね」

「うげ、本部か。まぁいいさ、それでそれは?」

「ちょっと待ちなさい」

 ミズはしゅるりと布を取り、死神から見えないようにしてそれをひっくり返したり回したりして確認する、暫く色々と確認した後にふわふわと浮遊している四角い金属が五角形の金属でできた2つの輪の中央にある置物を死神に渡した。

「これは?」

「安時儀よ、お代はそうね、2万でいいわ」

「たった2万でいいのか?」

「えぇ、2万でいいわよ」

「あれは?」

「貴方だったら2億で」

「そいつに上げるべき物か物がそいつを選んだかで売るか売らないかを決めるってか?」

「あら、分かってるじゃない」

「ったく、俺がいつかこの店の商品を買いたくて金を貯めてたのによ。だけどこれはいいな……」

「お気に召したようで」

 死神の手の上では安時儀がふわふわと浮きながら2つの輪が当たらないように、組み合わさるようにしてくるくると回っていた。

「ありがとよ、これでもう数百年は消える気はなくなった」

「それはいい事ね、お仕事頑張ってくださいませ。そうすればまた来れますよ」

「あぁ、頑張らせてもらうさ。次は自分で選びとってやる」

「楽しみに待っていますよ、本日は御来店ありがとうございました」

 死神は吹き飛ばされるような強い雨風が吹き荒れる外にダンッと大きくひとつ飛びで飛び出して行った。ミズは死神が去っていった戸を閉めた。

「変わらぬ平穏な日々の続くことを願います」

 雨は変わらず降っていた。

 強く、全てを洗い流すかのように。

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