第10話:勇のある者達

 10:勇のある者達

 人の話す音、歩く音、街の喧騒が遠くに聞こえる、そんな店内にはラジオから流れる音楽が流れていた。


 ガラリと扉を開ける音が店内に響く、ミズはぱっとラジオを止めて机の下に隠して身なりを整える。

「お邪魔します」

「邪魔するわよ!」

「お、お邪魔します……」

「いらっしゃいませ、ゆったりとしていってくださいね」

「あぁゆっくりさせて……」

「どうしたのユウマ?」

「ユウマさんどうかされたのですか?」

「いや、済まない。2人はちょっと表にでててくれないか?」

「え?何よ、私達には話せないの?」

「何か理由があるなら教えて欲しいです」

「済まない、多分この人とは同郷なんだ」

「え!?ユウマの東の国って言ってる国から来たってこと!?」

「良かったじゃないですかユウマさん!同郷の方に会えて!」

「ありがとな二人とも、とりあえず少しでいいから表にでててくれないか?」

「分かったわよ」

「分かりました」

「いえ、その必要はないですよ。御二方はこちらを」

「耳栓?」

「はい、耳栓です。つけてる間は何も聞こえない特殊な耳栓です」

「へぇ、便利なものね。使わせてもらうわ」

「わ、私も」

 ミズは入って来た男1人女2人の男女3人組の話を黙って聞いた後に女性陣へ耳栓を渡す、そしてミズと同郷と言った男は黒髪に黒い目、そしてあまり高くない身長に見た目も良い方なのに自分では普通と言っているそんな在り来りな「転移者」と話を始めた。

「便利なものがあるんだな、とりあえず僕は君にひとつ聞きたい、君も日本人なんだろう?」

「えぇそうですよ、私も元は日本人です」

「つまり君も何らかの形でこの世界に連れてこられたのか?」

「いえ、連れてこられたわけでは無いですよ」

「という事は自分の意思で来たって言うことか!?つまり君は帰る方法を知ってるのか!?」

「いえ、連れてこられたわけではない訳で私は帰る方法なんて知りませんよ。それに女性に近づきすぎるのは失礼かと」

「す、済まない。熱くなってしまった、とりあえず君は日本人なんだろ?良かったら僕達と一緒にこないか?そして一緒に日本に帰る方法を探そう!それに勇者の僕なら今よりいい生活を約束できる!」

「嬉しいお誘いですが辞退させてもらいます」

「何故だ!?君も理不尽に間違いで殺されたりしてこっちの世界に来たはずだ!それなのにぃ!?」

「流石に煩いですよ、それに私はこのお店でゆっくり静かに暮らしたいだけです」

「ドラゴンの爪でもダメージ受け無かった僕がデコピンで?」

「さて、とりあえずそちらの話はおしまいですね『御二方、耳栓を外してどうぞ』」

「ちょっとアンタ!ユウマにデコピンでダメージ与えるなんて何者!?」

「とりあえずその手の話は終わっているので、皆さん買い物があってきたのでしょう?良ければ商品を見ていってくださいね」

 ミズはそう言って尚も騒ごうとする転移者のパーティーを笑顔ひとつで黙らせた、勇者は「貫通スキル持ちか?いやでも」なんてブツブツ言っていたがミズはミズを睨んでいた女性2人に人形など可愛いものを取り扱ってる棚を指さし、2人はそっちの方へとても興味が出たらしくきゃいきゃいと「かわいい!」とかいいながら盛り上がってみていた。

 そしてそんな2人を見て勇者も何かいいものがないかと棚を見ようとした所でミズに声をかけられた。

「勇者さん、先程のお詫びと言ってはなんですが2つほど良いものをお渡し致しますのでそこで座って待っていてくれませんか?とりあえず待ってる間はこちらを」

「あ、はい。分かりました、これ緑茶ですか!くぅぅうぅ身にしみるぅ」

「それはよかった、お代わりはそこの急須にあるので自由にお飲みくださいね」

「ありがとうございます!やっぱりお茶はいいなぁ」

 さりげなく棚を見て日本製の品を見られないように仕向けたミズを置いて、相当久しぶりだったのか緑茶を飲んで落ち着く所か興奮している勇者を横目にミズはすっと手を動かした、いくつかの品がふっと無くなったのを確認してあるものを取りに店の奥へと消えていった。

 暫くして女性達が可愛い可愛いと言っている後ろ姿を見ていた勇者に戻ってきたミズが声をかける。

「勇者さんお待たせしました、こちらをどうぞ」

「これは……もしかして醤油と味噌ですか!?」

「えぇ、醤油と味噌です」

「ひ、1口いいですか?」

「えぇどうぞ」

「ほ、本当に醤油だ……!あの!お金は払いますのであるだけ下さい!」

「では醤油が3樽、味噌は2樽ほどありますので、お詫びで1樽ずつとしますので2万6000ルタです」

「それだけでいいならば!」

「金貨3枚ですね、ではお釣りを」

「釣りは取っておいてください」

「あら、いいのですか?」

「えぇ、一度言ってみたかったんですよ。それに通じる人がいないと虚しいですからね」

「ふふふ、意外と面白い人ですね。それでは樽を持ってきますので…そこのお嬢さん達に何か買ってあげるとかしてみては?そこの棚にある髪飾りは全部2000ルタ統一ですよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 勇者が仲間の2人に髪飾りを選んでる間にミズは樽を運んでくる、途中軽々と樽を持ってきていたミズを見て言葉の刺々しい方の女闘士と言わんばかりの女性が驚いた顔をしていたが、ミズは気にする素振りも見せず樽を運び終えた。勇者は樽を持ち、余りの重さにビックリしていたがなんとかマジックバックとやらに全て詰め込むことができた。

「こんなに重いものを軽々と持つ力があるのに、本当に仲間になってくれないのですか?」

「はい、申し訳ありませんが」

「ここまで断られては仕方ないですね。いつかまた来ます!」

「お待ちしておりますね、本日は御来店ありがとうございました」

 勇者一行は店から出ていき、ミズは一息ついた。

「やはり転生者、転移者には気が抜けませんね。ですがこの世界の難易度なら特に何か必要な物もないですし、きっといい冒険になることでしょう」

 ミズはふあぁと欠伸をして本でも読もうかと店の奥へと消えていった。

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