第11話:救う者
11:救う者
しゅぼっというマッチに火をつけた音が店内に響く、ランプに移されたその日はじんわりと店内を明るく、そして暖かくした。
商品が記載されている帳簿に何やら書き込みながらミズは薄暗い店内の棚の前をウロウロとしていた。
戸が開かれ、一人の男が入ってくる。ミズは袖の中に帳簿を仕舞いその男を向かい入れる。
「いらっしゃいませ、ゆったりとして行ってくださいね」
「あぁ、そうさせてもらうよ。とりあえずいつものをくれないか?」
「ここは居酒屋では無いのですが、仕方ないですね。暫く待っていてください」
「ありがとうな、俺は少し休んでおくよ」
「えぇ、そうなされてください」
男はそう言って椅子にドスッと座る、男の横には柄頭と柄の根に金のチェーンがつながっている金の柄に光を一切反射しない黒い板に赤黒い布が巻き付けられているという剣がある。そしてその男自身も赤黒い布が巻き付けられている前が空いている黒いコート、その下には黒字に1本の金の線が入ったシャツをズボンには真っ黒いジーンズを着ていた。
そしてコートやズボン、シャツの裾には所々に黒地でもわかる赤みを帯びたシミが出来ていた。
ミズが店の奥から酒とおつまみ、そして1cm程のブロックを持ってきた、男はミズと同じくらい長い水色の髪を掻き上げその目元に包帯が巻かれている顔をミズに向けた。
「ありがとう、やっぱり異世界の酒は美味いのが多いからな。ツマミはなんだ?」
「イカの燻製ですよ、お酒の方は吟遊と正代です」
「正代か、俺の好きな酒覚えててくれたんだな」
「はい、忘れてませんよ」
「ははっ、嬉しい限りだ」
男はぐっと酒を飲む、その手には巻かれた包帯の下に人の目のようなものがあった、くぁぁと声を漏らした男は燻製をつまみつつもう一杯酒を飲む。外で大きくガコンと何か大きな音が聞こえその音の後に大きく揺れる、ちゃぽんと酒が数滴跳ねるが男も、そしてミズも気にしなかった。
「今回は水色なんですね、前回は確か灰色だったと思うのですが。そういや私が来るまで何度戻しましたか?」
「27回だ」
「そうでしたか」
「あぁ、そろそろ通算何桁に行くんだろうな」
「分かりません、ただ少しは進んでいるのでは?」
「だが今回もダメだったさ、よっと」
「あら、よろしいので?」
「構わんよ、どうせ数時間後には次だ、そこでどうせまた手に入る。そうなるんだからな」
「そうでしたね」
男は空いていた窓から覗き込もうとしていた肉に機械が埋め込まれたような異形に剣を槍のように投げ吹き飛ばす、そしてミズとそのような会話をして酒を飲む、ミズはその男を少し悲しそうに見ていた。
男が2本目の酒に手を出した所でミズは店の奥へと消えた、その姿を見送った男は酒を飲みつつ棚へと向かう、小物や玩具、日用品にこの世の物ではない物まである棚だったが男にとってはどれも唯の並べられている品のようだった、男が棚から1つの水晶を取った所でミズが戻ってくる。
「品は選びましたか?」
「あぁ、これを貰うよ」
「それですね、了解です。代金はいつもので」
「分かった、あれもあるな」
「えぇもちろんです」
「そうか、有難く貰っていくよ。そろそろ終わるし俺は行くとするよ」
「御来店ありがとうございました」
「次は今より良くしてみせるさ」
「楽しみにしています」
男はミズに箱を渡してミズから何かが入っている瓶を受け取った、最後にブロックを口に放り込み残った酒を一気に飲み干した。
男はそれ以上何も言わずに外へと出ていった。
そして男が閉めた戸の先ではもう何も音もしていなかった。
「救われる日が来ることを祈り続けます」
ミズはそう一言言い残し、一筋涙を流した。
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