第9話:魔を使う者

 9:魔を使う者

 ひゅうひゅうと窓の外から風の吹く音が聞こえてくる、それに合わせてカタカタと窓の揺れる音が店内に広がる。


 ミズは座ったまま目を閉じ寝ているのかもしれないと思うほど微動だにしない、しかし手は顎に当てており何かを考えているように見える。

 そんな時にガラガラと音を立て戸が開かれた、ミズは座ったままだが手を顎から離し膝に置いて迎え入れる形をとる。

「いらっしゃいませ、ゆったりとしていってくださいね」

「お邪魔させて貰うわ、ここは何のお店なのかしら?」

「ここは雑貨屋でございます」

「ふーん、雑貨屋ねぇ……」

「えぇ、雑貨屋でございます」

「わ、分かったわよ。それでどんなものがあるのかしら?触媒用の属性石とか薬用のアルラウネの種とかかしら?」

「その辺もありますが、日用品からちょっとした小物に娯楽までありますよ」

「本当になんでもあるのね、じゃあマンドラゴラを10株とドラゴンの鱗を3枚、後あるならミスリルかアダマンタイトをインゴットで1つ頂戴」

「はい、しばらくお待ちください」

 お店の中に箒に乗って入って来た黒い三角帽にローブといういかにも「魔女」という少女はミズに「出せるもんなら出してみなさい」と言わんばかりの顔でミズに素材を要求した、そして平然と持ってくるから暫く待てと言われポカンとした顔になっていた。

 数秒の時間を用いてハッとした少女は頭を振り頬をぺちぺちと叩いて。

「きっと偽物よ、そうに違いないわ。私は鑑定の魔法があるんだからそれで確認すれば……」

「どうかされましたか?」

「ひゃい!?い、いえなにも!」

「そうでございましたか、今もって参りますので暫く他の商品でもご覧になっていてください」

「は、はい」

「それではちょっと失礼します」

「び、びっくりしたぁ」

 突如店の奥から顔だけ出して少女に話しかけたミズはそのまままた店の奥に消えていった。少女はいきなり話しかけられて驚いたのか、へなへなと座り込んでしまった。ようやく落ち着いてぱたぱたと汚れを払った彼女は棚を見て回ることにした。

「これ可愛い、でもさっきので10万リットは使うから残るのは2万リット……見た感じこれは5000リットはするから……ほ、他のも見てみようって何これ魔道具!?しかもすっごい綺麗!こんなの10万リットは軽く越すんじゃないかしら……あ、これすごいもふもふ」

 1人できゃいきゃいと盛り上がりながら彼女はイルカの小物や金の爪、よく分からないすごいもふもふな毛玉のぬいぐるみなどを見たり触ったりしていた、そしてその様子をいつの間にか戻ってきていたミズがニコニコと可愛いものを見る目で見つめていた、そして少女がくるっとレジのある机の方に向いた時にバッチリ目があった。

「ふふふっ、ルンルン気分でしたね。何か良いものがありましたか?」

「なっ、ないわよそんなの!少ししか……」

「くすっ、そうでしたか」

「あーもう!マンドラゴラと鱗とインゴットは!?」

「はい、こちらに」

「あったの!?んん、こほん。見てあげるわ」

「はい、どうぞ」

「ほ、本当にマンドラゴラにドラゴンの鱗だ……それにこの水晶ってオリハルコンなんじゃ…いやそんなまさか」

 少女は小さく詠唱をしながら手で魔法陣を書く、ミズはそれを見て軽く驚いた顔をした後に詠唱が終わった少女に話しかけた。

「鑑定魔法ですか、その年で使えるのは凄いですね」

「べ、別に褒めても何も出ないわよ!」

「あらツンデレ」

「あーもう!とりあえずまずはこれはマンドラゴラ…こっちは上位龍の鱗!?それにこっちはやっぱりオリハルコン……、代金払えないわよ?」

「貴女がやろうとしていることは何となく分かったので成功率を上げるならこっちの方がいいはずですよ」

「確かに私のこの実験は魔力伝導率が大切……、だけど耐久度が落ちるけど上位龍でそこはカバーできる……確かに完璧ね、でも値段が……」

「はい、なので代金は7万リットで」

「あ、7万リットでいいのね……7万リットなら……って7万リット!?普通に買えば100万は下らないレベルの質なのよ!?それを7万で!?」

「はい、7万で。それにおいそれと売れませんからね」

「だからって7万で売らなくても……」

「それに将来性のある人が使うのが1番ですから」

「断る理由もないし有難く…ってん?キモノ?変わった服だと思ったけどそのキモノって言うの綺麗でいいわね」

「そうですか?そう言って貰えると嬉しいですね」

「えっと……あと8万リットあるけど何か買っていこうかな……?」

「あら、嬉しいですね。良ければ着物着ていきます?」

「いいの!?」

「えぇ、構いませんよ」

「やった!ってんん、こほん。着てあげてもいいわ」

「それではちょっとそこに敷居でも立てますね」

「店の奥じゃだめなの?」

「だめですよー」

「まぁ、そういうなら仕方ないわね。手伝って上げるわ」

「それは有難いですが、せっかくですし商品を見ててくださいな」

「むぅ、分かったわ。着物に水色のってある?」

「えぇありますよ」

「ならそれがいいわ」

「分かりました」

 その後少女は小物やぬいぐるみ、洋服にちょっとした魔道具など色々なものを買った、買ったものは魔法の袋に放り込んでいた。

「とっっっても楽しかったわ!」

「それは良かったです、それに私も楽しめましたから」

「そ、それにアンタが嫌じゃなきゃまた来てあげても…いいかなって……別にアンタが気に入ったなんてわけじゃないんだからね!それにこの毛玉ちゃんまた仕入れときなさいよ!」

「ふふふっ、分かりました。それでは実験の成功を祈ってますよ」

「えぇ!任せなさい!それじゃあ!」

「本日は御来店ありがとうございました」

 ミズは少女が箒に乗って飛び出した戸を閉め、ランプに火を灯す。

「彼女の明るい未来に多くの幸があらんことを」

 ミズはそう呟き店の奥に消えていった。

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