第8話:黄昏に巣食う者

 8:黄昏に巣食う者

 外は日が暮れ出しているのかまさに黄昏と言わんばかりに店の中へと日が差し込んでいた、外からは様々な鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 ミズはちびちびとお茶を飲みながら何をするでもなくただ目を閉じ座っていた。

 コンッココンッココンコン

 店内に軽く戸を叩かれた音が響いた、ミズはすっと立ち上がり脱いでいた下駄を履き戸を開ける。

 しかし戸を開けたミズの前には人影などなく今にも暗闇に沈みそうな落葉の始まった森が広がっていた、しかしミズは何かを入れるように戸の前から退いた。

「いらっしゃいませ、ゆったりとして言ってくださいね」

『ほう、私が喋れると分かってたのか』

「えぇ、人では無いお客様もお相手にしますので」

『そうだったのか、この辺りには昨日まで何も無かったはずだがここは何だ』

「ここは雑貨屋ですよ、人間の店の一つです」

『貴様人間か!?いや、それは無いはずだ…』

「大丈夫ですよ、貴方が考えてるような事はしませんので」

『そうか、いや失礼。私の魂はくれてやるからどうか森には何もしないでくれ』

「あら、取って食ったりはしませんよ。今日はたまたまこの世界に現れただけですから」

『そうか、それなら良かった。それで雑貨屋とはなんなのだ?』

「色々な物を販売しているお店ですよ。そちらの持っているものとこちらの持っている商品を交換するのです」

『物々交換というわけか、良ければ見てみても良いか?』

「えぇ構いませんよ、お入りください。それにそのままでは商品を見るのも苦労するでしょうし私の手にお乗りになるか指におつかまり下さい」

『い、いいのか?』

「えぇ、どうぞ。遠慮なさらず」

『それではお言葉に甘えて』

 そう言ってミズの前に出している右手の人差し指にはね先が赤く根元が水色の羽根を羽ばたかせ、胸の中央に金色の目を縦にしたような模様を持つ小さな「小鳥」が留まる。

 ミズは奥の方の棚へと歩いていき上の方の棚へ小鳥の留まっている指を近づける、小鳥はぴょんと棚へ飛び移り商品に当たらないよう動きながら様々な商品を見ていく、常に変形し同じ形になることの無い個体、触った所から水紋が広がる銀板、小鳥と同じサイズの車の人形、日を受けて怪しく光る土の水晶。

 小鳥は森の中には無いそれらを一つ一つ見ていく、棚を隅々まで眺めては見終わるまでそばで立っているミズの差し出された指に飛び移り次の棚へ運んでもらうということを繰り返していた、そしてその繰り返しも何度目かになろうと言う時にミズが一言聞いた。

「外にいる方々は待たせていてよろしいので?」

『あぁ、あいつらか。「頭」と「足」はまだ入れるだろうが「羽」と「体」は入れないだろうからな』

「入れる方は入ってもらっても構いませんのに」

『私と違って奴らは「判断」こそ出来ても「理解」をする事はできないからな、入れてもちょっと騒がしくなるだけだ』

「それなら良いのですが」

『それでいいんだ、それにしてもここは不思議だな。この店の中という空間は何にも属していないと言うべきか』

「流石ですね、鋭敏な感覚をお持ちでらっしゃる」

『ありがとう、それに商品も普通ではないものが多い、あれは断片に近いかそれ以上のものだろう?それにそっちは「ーーーー」だったものじゃないか?』

「そこまで分かるのは素晴らしいですね、渡った事がお有りで?」

『2度ある、2つ目の渡る時に「ーーーー」とやり合ったからな、「爪」はその時に眠った、ここが続くならもう渡る気はない』

「ふむ、私も人を見る目はまだまだですね」

『鳥だからな、人を見る目があっても私達は対象になるまいて』

「ふふっ、違いませんね」

『それじゃあ時間ももう無くなる、そろそろ帰るとでもしようか』

「あら、ちょっとお待ち願えないでしょうか」

『かまわんが』

「では失礼して」

 商品を見ながらそんな話しをしていた小鳥にミズは少し待ってもらうように言い、端の方にある棚から1つの欠片のような物を取り出してきた。

 それは光っているような黄色くも紅い色をしていた。

「日暮れの欠片です」

『これはまたとんでもないのを…』

「おいそれと渡せる相手は居ませんからね」

『なら余計に私に渡すべきではないのではないか?』

「いえ、持っているものは使わねば意味がありません。それにもう時間も余り残されて無かったのでしょう?」

『そこまで分かっていたのか』

「えぇ、一応は」

『ならば有難く頂こう、お代はこれでいいだろうか』

「あら、これは良いものを」

『それではまた、次来られることがあれば我々全員で丁重にもてなさせてもらおう』

「それは楽しみです、それではまたのお越しをお待ちしています」

『あぁ、いつかまた来る』

 そう言って小鳥は羽を1枚置いてミズが開けた戸から出ていった、開けた戸の外には「体」や「羽」と呼ばれていた鳥のような形をした、体のあちこちに金の目のような模様を持つ「羽」や「頭」といった特徴のあるモノ達が居たそのモノ達は小鳥と一緒に森の奥へと消えていった。

「黄昏に身を置いた怪物達にどうか静かな日々が訪れますよう」

 そう言い残しミズは貰った1枚の羽を眺め始めた。

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