ミズの変わった雑貨屋
こたつ
第1話:雑貨屋さん
1:雑貨屋さん
しとしとと雨が降る。
静かなお店の中には涼しげで落ち着きをくれる雨音とぺらりぺらりと本をめくる音が響いていた。
カラカラと戸を開ける音がお店の中に響く。
「お、おじゃましまーす」
「いらっしゃいませ、ゆったりして行ってくださいね」
「は、はい」
その日は1人の「人間」の女性が訪れた、年の頃は15か16程だろう。
髪は肩にかかるほど、明るい栗色の髪を揺らしながら彼女は緊張した様子で店へと入ってきた、そして彼女は店長であるミズと言葉を交わす、ミズは落ち着いた声で彼女を歓迎し、また彼女もその落ち着いた声で緊張がほぐれたようだった。
彼女はしばらく店の中を歩き、商品棚を見て回った、ぺらりぺらりと静かな空間に本をめくる音が響く。
子供が好むような菓子、洗剤やスポンジなどの日用品、ちょっと不思議な置物から彼女が「かわいい」と言葉を漏らすような人形、何に使うのか分からないような道具など様々な物が置かれている。
彼女は珍しい物をみた、楽しい物をみた、そんな浮かれたような気分で、あまり広いとは言えないこの店の中を時間かけて見て回っていた。そして棚を半分も見てしまわない頃にふと何かを疑問に思ったのかミズに一言問いかけた。
「すいません」
「はい、なんでしょうか」
「このお店はなんのお店なんです?」
「この店、ですか。この店は雑貨屋ですよ、ちょっと食べたくなるようなお菓子、可愛げのある物に日用品、ちょっと専門的な道具、いろんなものが置いてある雑貨屋さんです」
そうミズは彼女に答えた、彼女はそんな風に返されると思ってなかったのか少し固まっていた。
くすっとミズが笑いをこぼす、その音で彼女はふるふると頭を振り、恥ずかしかったのか顔を少し赤らめ慌てるようにしてまた棚に向き直った。
そんな彼女にミズが話しかける。
「今日はどうしてこちらへ?」
「あ、えーっと。今日はちょっと回り道してみようと思って……」
「そうだったのですか、どうです?回り道で良いものは見つかりましたか?」
「いえ、何も……」
「あら、それは失礼を……、でも今日はいい天気でしょう?」
「そうですか?私は雨が降ってるからあんまりいい天気って思わないんですけど……」
「雨もそう悪いものじゃありませんよ、私はこれくらいの雨が好きでして、ちょっとしたぽつぽつという少し濡れる程度が外へ出るのを億劫にさせ、こうして室内でぽつぽつという小さい雨音を聴きながら本を読み、子作業をし、ゆっくりと時間が流れていく。こんな天気が私は好きですよ」
「そう聞くと雨も悪いものじゃないですね」
「でしょう?」
二人はクスリと笑い合い、それぞれ元々やっていたことに戻る、再びぺらりぺらりと本をめくる音と彼女のコツコツという足音だけが店の中に響く、長いようで短いようなそんな時間を彼女は軽い足取りで楽しげに棚へ陳列されている不思議な物達を見ていた。
見終えた棚も半分を過ぎ、ぱたんとミズが最後のページを読み終えた頃、彼女はひとつの物にじっと目を向けていた。
それは簡単な少し黒みがかっていて高さも2cmとない木の台の上に乗っている、澄んだ深い青色の球体だった。
ガラスやビー玉とも言えない不思議な、そして落ち着くよつな色合いの珠中に小さな、でも確かに存在感のある星のような物があった。
数分、しかし彼女には一瞬に感じる程だっただろう。
それだけの時間彼女はその青い珠を見つめ、ミズに声をかけた。
「すいません、これ幾らですか」
「あぁ、蒼星ですか。それなら200円でいいですよ」
「え?200円でいいんですか?これ水晶とかなんじゃ……」
「ふふっ、それは私の手作りなんですよ。それに熱心に見てもらってましたからね、特別です」
「えっと……それじゃあお言葉に甘えて」
「はい、毎度ありがとうございました。また機会があれば是非お越しくださいね」
「はい!」
そう言って彼女はカラカラと音を立て戸を空けて出ていったのだった。
「貴女が深い海のような落ち着く時間を過ごせますように」
そうミズは一言言うと次に読む本を取りに店の奥へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます