第2話:形無い者

 2:形無い者

 カチカチッカチッ

 お店の中に小さく、だが心地よくなるような音が響く。


「なかなか難しいものですね……こうでしょうか」

 ミズが独り言を吐きながらルービックキューブに挑戦していた。

 バラバラになった面はなかなか揃わず、困った顔を浮かべながらもカチャリカチャリと面を回していた。

 カラリとほんの少しだけ戸を開ける音が聞こえた、ミズがルービックキューブを置き、戸の方へ向き直る。

「いらっしゃいませ、ゆったりとして行って……これこれは。珍しいお客さんですね」

「ココ……ドコ……?」

「ここは雑貨屋です。色々な物があるところです」

「イロイロ……?」

「そう、色々です。沢山です」

 今訪れている客に少し驚いた顔をしつつミズがそう説明をする。

 そして薄い水色の体からポタポタと粘液を落とし、ズルズルと動いて、客である「スライム」は棚を見て回ろうとしていた。

「少しだけここで大人しく「待って」いてくださいね」

「マッテ?」

「そう、「待つ」。動いちゃダメって事です」

「マツ!」

「いい子です」

 ミズはスライムに言い残し、店の奥へと消えていった、そして1分もしないうちに中に青い液体の入っているビンとゴム手袋を持ってきた。

「これを「飲む」んですよ」

「ノム?」

「そうです、「喰らう」といえばいいでしょうか」

 そう説明すると、スライムはミズの持ってきたビンの中身を吸収した。

 するとスライムは人の形に変わった、そしてその手にミズがゴム手袋を付ける。

「はい、これでいいですよ、触るだけなら好きにしていいですから、食べたりはしないでくださいね、「分かった」?」

「ワカッタ」

「いい子です。欲しいのがあったら「コレ」と言うんですよ?」

「ワカッタ」

 ミズもスライムが相手だと何かをしながら待つという事は出来ず、人の形を取らせたスライムの後ろをついて行き様子を見ていた。

 ペったペった、からんころん

 濡れた足音と下駄の足音が石床の上を動く度にお店の中に響く、やはりスライムは棚に置いてある物が珍しいようで様々な商品を手にとっては裏返してみたり手で弄ってみたり、うっかり体に取り込みかけたりして珍しくミズが焦っていたりした。

 そんなスライムにミズは言葉を教えながら付いてあげていた、その結果スライムはある程度喋ることが出来るようになっていた。

「ミズ、ミズ」

「はい、なんでしょうか」

「ミズッテカミサマ?」

「ふふふっ、違いますよ」

「ソウナノ?デモスゴイツヨイカンジスル」

「あら?そうですか?」

「ウン」

「あらあら、でも私はただの雑貨屋さんです」

「ミズ、ザッカヤサン」

「はい、雑貨屋さんです」

「ザッカヤサン、ツヨイ?」

「雑貨屋さんはお店の1つです」

「オミセ、カイモノスルトコ」

「お、偉いですよー、その通りです」

 そんなやり取りをしつつスライムは全ての棚を見て回った、途中水槽を見て中に入ろうとするなんていうこともあったが何か物が壊れるでも無く、明るい雰囲気が店の中に広がっていた。

「ミズ、ミズ」

「はいはい、なんでしょうか」

「コレ、コレ」

「えーっと……ってあらあら……それでいいの?」

「ウン、コレガイイ」

「えーっと……うん、それならお代は要らないわ」

「クレル?」

「そうです」

「イイノ?」

「はい」

「アリガトー!」

「いえいえ、またご縁があったら会いましょうね」

「バイバーイ!」

 そう言ってスライムはルービックキューブを持って店から出ていった。

「あららら……、本当に良かったのかしら、せめてお守りになりますように」

 そう呟きつつミズは粘液まみれになった床を見てため息を吐いた。

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