聖杯、聖槍、聖遺物、そうした宗教的に神聖な物品を兵器として消耗品扱いする。読む前から本作にそういう要素があることだけは知っていたため、以前はブラックジョークの印象が強かったのですが、読んでみるとそんなものはごく表面的なものだと理解しました。
作中の人類は滅亡の危機に瀕していて、ただ生きることに必死なだけ。それが聖なる物品さえ使いつぶす、なりふり構わない姿勢に現れているのだと分かりました。なので、もし以前の私が抱いたのと同じ印象のためにこの作品を敬遠している方がおられましたら、もったいないと思います。
主人公の男性も、全人類を救うという究極に汎愛的な使命を背負いつつも、幼馴染の少女への恋心という人として等身大の想いをどこまでも貫く、感情移入しやすく魅力的な人物です。その想いに殉じた壮絶な物語を、あなたも是非、最後まで見届けてください!!
主人公の生き様は、まさにレビュータイトルのまま。
人類の8割を喪うという世界に於いて、復讐を神に任せておけぬというのならば、自らが神になる他は無い。聖人の果て、神の座へ。人外に身を堕とそうとも、求め、与えられようとする姿には、純粋であり、生命として原始的な、粗野な獣性とも言うべき、暴力的な熱量を持つ愛の形を感じる。
その主人公のキャラクター性だけでも、この作品を読み進めるに足る理由になるだろう。
物語の主人公は、弱くてもいい。繊細で、脆弱でも。折れてもいいし、逃げてもいい。
ただ、正しい者は7度倒れても、また起き上がって欲しい。
それが、私の願いだ。
そして、その願いを叶えてくれるのが、鉄機 装撃郎氏の作品でもある。
さて、ロボットものでありながら、キャラクターだけでレビューを展開するのも野暮というものだろう。
宗教というオカルティックな無形と、ロボというメカニズムの造形の融合。
一見、ファンタジー寄りである題材として。この部分は勿論、今日に殊更珍しいものでも無くなった。
事実、作者の過去2作でもその試みは見て取れ、こちらも是非読了して欲しい作品たちであるが。ここ一連の作品群を見ても、実に、そのスケール感というものを大成させていると思う。
激しく、厳しく、乾いて、難しい、これをハードと一言で呼べる単語が羨ましくも思えるほどの世界で、ソフトでウェットな愛情の形を、体感して欲しい。
レビューあれ。
数多くの読者に、私はそう願うものである。
西暦2020年のクリスマス、天使の姿を象った怪物によって町の人々は一瞬にして塩の柱へと変えられた。それから時が経つこと10年。人類はその八割を喪いながらも、かろうじて生き延びていた。その要因こそが『メシアクラフト』、最初の災害で生き残った唯一の少年・ユウキをパイロットとする、世界中から集めた聖遺物によって造られた人型決戦兵器だ。
そして今、そのメシアクラフトとユウキの最後の戦いが始まろうとしていた……。
ロボットものはカクヨムのSFジャンルの中でもかなりの人気分野なのだが、その中で本作を紹介する理由、それはこのメシアクラフトの設定が実に秀逸だから!
通常兵器では傷つけることのできない敵に対抗する手段として、聖遺物を兵器に組み込み、機体に使われる冷却水も聖水、燃料も聖なる重水。操縦できるのは聖人に認定された者だけで、さらに操縦時には手首と足首に釘を打ちこまれ、脇腹を槍で刺されるという儀式がなければ起動しないという徹底っぷり。
搭載されている兵器で戦うだけでなく、聖書に記された奇跡を再現するという戦闘シーンも素晴らしい。人類滅亡寸前という実にハードな設定ながらも、この作品ならではというオチをつけてまとまっているストーリー展開も素晴らしく、分量も中編程度なので、ロボットものが好きな方は是非ご一読を!
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
まず初めに言いますと、この小説は五万文字近くの中編である。
その五万文字という短い中、壮絶なバトル、豊富な装備とその説明、そして主人公の生きざま、それらを詰めに詰めた構造は本当に舌を巻くほどだ。
クリスマスの夜に愛する者を、全てを奪われてしまった一人の少年。彼は愛する者を取り戻す為、自ら聖者になって天使を焼き尽くす。
世界の為ではなく、人類の為ではなく、ただその女の子の為。その純粋な気持ちが、この小説の中で深く刻まれている。
まだ読んでいない方はぜひとも堪能をしてほしい。そして最後まで見届けてほしい。
聖者というの名の一人の人間を描いたその戦いを。
目も眩むような勢いで乱打されまくるキリスト教的奇跡や聖遺物・聖人・伝承とロボットアクションSF要素の組み合わせワードが凄まじい。
聖なる戦術核ミサイル、人工聖杯ジェネレーター、クローン培養不朽体ミサイル、etc……これちょっとやばいんじゃないのというワードが立て続けに機関砲の如く発射されてくる、これだけでも割とぶっ飛んだ作品です。
しかしてそうしたパワフルダイナミックなワードのインパクトだけに留まらず、ロボット作品としてのバランスもしっかり取れており、異様な熱量のこもった作品でありながらすんでのところで崩壊せず作品として危ういバランスで、その危うさが魅力的な仕上がりとして立っているのは凄いんではないでしょうか。ダイナミックさや勢いがここまで出るだけで印象的だし凄いことに思えますが、それに留まらないバランス感覚というか、技巧も隠れた美点だと思います。
人物はただただ勢いよく上がるか落ちるか、という心情的主題的動きをしているのですが、これが46000字のセカイ系の中で上手く物語として成立しており、舞台設定、物語の流れともリンクしており面白い。
とにもかくにも、壮大な言葉とイメージが最初から極大なのにどんどんスケールアップしながら乱舞しまくるというわけのわからない「大スケールの奔流」を一機読みして味わって欲しい作品。
この物語は、正体不明の敵に滅ぼされかけた人類が、絶望に抗う物語…ただの傑作ロボット小説です。同時に、一人の少年が一人の少女に恋して、愛へと変えた力で戦った神話ですね。世界滅亡のマクロな物語の中で、二人だけの世界は運命を掴み取るのか?是非、荘厳に過ぎる物語に触れてほしいですね。
☆60秒でわかるメシアクラフトのやっべえ魅力!
・徹底して作り込まれた世界観と、細部までこだわり抜かれた演出!
・圧倒的な迫力をかもしだす、前高100mの巨大ロボが織りなす戦闘シーン!
・シンプル故に心に刺さる、深々と気持ちを穿ち貫いてくる純愛の物語!
・人類滅亡の瀬戸際なのに、美しすぎる二人だけのセカイ。
・読めば網膜を通して、痛みと苦しみ、切なさと愛おしさが心に刻まれる!
・一気読みに最適過ぎるボリューム、さあ君も鉄機節の虜になろう!
・本作に劣らぬ、ボディアッパー系ブン殴りロボ小説!他の作品もヨロシク!