【番外編】設定集:メシアクラフトの建造経緯
■建造に至るまでの戦況
2020年の東京に飛来した敵性聖物体群〈イコン〉の襲来に際し、国家体制を崩壊させつつあった旧国家群が人類の残存勢力を結集して造り上げた聖人型決戦兵装。それが計十三機のメシアクラフトシリーズだった(公式には13号機は欠番、実際には1~12、14号機が建造され実戦投入されている)。
東京を塩の地獄と変えた翼の怪物たち――――後にイコンと呼ばれるに至った敵性生物群は、出現当初から一切の攻撃を受け付けなかった。当時の人類が有していたあらゆる誘導弾、砲弾、指向性エネルギー兵器もイコンたちの白い身体を傷付けることは叶わず、たとえ軍が迎撃しようとしてもイコンたちを撃墜することはおろか、足止めすることさえ出来ないという有様が人類の限界だった。
東京聖災発生から二年以上に亘って有効な策を見いだせないまま、人類はやがて地球全土の5割以上を喪失する事となる。
そこで実戦投入を検討されるようになったのが、聖遺物を利用した新たな兵器群の構想だった。人類が積み重ねて来た敗戦記録を分析したところ、東ヨーロッパにて発生したとある防衛戦においてイコンを僅かながら損傷させることに成功したという報が入ったからだった。
件の戦闘発生地域はポルトガル共和国のポルト地方。地下に大量の人骨が収蔵されていることで有名なサンフランシスコ教会周辺でイコンとの戦闘が勃発した際、突如として天啓を耳にしたと主張し、狂乱し始めた砲兵の一人が、尽きた砲弾の代わりに榴弾砲から修道士たちの人骨を撃ち出したという(※事実関係については未だに確認が取れていない)。
真偽のほどは定かではないものの、それは確かに超低空を滞空していたイコンの一体に直撃し、長さ1m以上に及ぶ巨大な羽の一枚を損傷させることに成功した。
この偶発的な事例から導き出されたのは、聖遺物の投射がイコンを傷付け得る可能性だった。イコンは聖なる物体であるが故に通常兵器では傷付けられない、ならば同じ聖なる物体を投射すれば撃墜可能ではないかという仮説が誕生した瞬間でもあった。
聖遺物の戦闘転用にあたっては、聖遺骸や聖骸布を祀る各地の教会・宗派からは強固な抵抗が発生した。特に歴史的な確執がある東方正教会との間では、聖遺物を巡る内戦さえ勃発したものの、やがてメシアクラフト建造派が聖遺物を接収していったことで戦闘行為は徐々に終結。これまでは禁忌とされていた聖遺物の解析・複製研究が、人類救済=メシアクラフト建造の大義の下に急進派リベラル神学者たちの手によって進められて行く事となる。
■建造に際してのコンセプト
やがて数多の人体実験を重ねて建造にこぎ着けたのが、全身を聖遺物で象られた決戦兵器〈メシアクラフト〉の初号機だった。聖遺物を巡る内戦はヨーロッパを中心に勃発したこと、そして東京聖災の後は日本にイコンが襲来し辛かったこともあり、メシアクラフト初号機は比較的工業力が残っていた日本国内にてロールアウトする事となる。
メシアクラフトは聖遺物の塊である為、それを稼働させるにはどうしても生きた聖人を搭乗させなければならない。そこで選ばれたのが東京聖災を生き延びた者の一人、すなわち遺伝子中に
メシアクラフトそのものが人型を象っている理由は一つ、それは聖遺物を有効に稼働させるため。そもそも聖遺物とは神の恩寵を媒介する一種の呪具であり、聖遺物を用いて来たのは常に聖人であり、神の子だった。すなわち人型こそが最も有効に聖遺物の力を引き出し得る合理的形状であった為に、メシアクラフトは人型形態を併せ持つ機動兵器として設計されている。
また、第一級の聖遺物から構成されるメシアクラフトのボディは、仮想敵たるイコンと同様に通常兵器に対する極めて強固な抵抗性を発揮した。ロールアウト直後に勃発した緊急運用時の記録によれば、メシアクラフトは極超音速落下中のICBMより投下された150Mt級純粋水爆の至近炸裂も難なく耐え抜いたという。
以降、十三機のメシアクラフトは各宗派による細かな機体仕様が在りながらも、ほぼ初号機と同様の仕様で次々に実戦投入されて行った。対イコン戦争に投入されてからの戦果を論ずる機会はまた別の資料に譲ることとしたい。
――『プロジェクト・メシア(著:凱藤』第三章より抜粋――
聖骸機メシアクラフト【完結済】 鉄乃 鉄機 @43121523
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