第7話受け継ぐ意志
「
床に伏せる太郎を、心配そうに見つめる
だが、その声はしっかりと届いていた。ゆっくりと太郎の目が開いていく。
迷うことなく、その顔を
「
「
目を細め、そう告げた
「何かあれば、九郎に申せ。あれにはお前の事を託したのだ」
「はい、
その笑みに、悲しい色が加わっていく。
その姿を見た太郎は、ゆっくりと
「すまぬな、
「『だろう』ではありません。お二人共、とてもよく似ておいでです」
その手をしっかり取ったあと、きっぱりと
しばし見つめあった後、二人は互いに吹きだし、笑う。
温かな雰囲気がその場にゆったりと腰を落ち着けるかに思えた時、真剣な顔をした太郎がそれを追い出していた。
その姿に、
「いよいよ、来る。おそらくは次の年だ……」
「はい。
「そうか、やはり聞いておったのだな……」
急にやってきた沈黙は、ずうずうしくも二人の間に居座ろうとする。だが、太郎はそれを許さなかった。
「早いものだ。あの時小さかったお前が、今ではどこに出しても恥ずかしくもない美しい姫となった。お前の
ため息をつく太郎。それを静かに
「申し訳ありません。まだ、その時ではないようです。でも……」
「まあ、そなたの気持ちを想えば、九郎を勘当でもしておくか。息子を義理の息子にするのは前代未聞。だが、むしろその方が俺も気が楽でよいかもな。そうか、そうだな」
一変して楽しげに笑う太郎を、複雑な笑みで
その視線に気づいたのだろう。太郎もそれは冗談だと言わんばかりに、片手をあげて笑うのをやめていた。
再び訪れた、静寂。
だが、太郎の言葉は再びそれを追い払う。
「だが、それまで俺はこの姿を保てないだろう。決めていたこととはいえ、すべてを九郎に委ねるしかない。歯がゆいことだ……。しかも、老いてからの子故に、俺の体が持たぬ。四郎たちのように、あれの力になってもやれぬ」
静かに目を瞑る太郎の手を、
「その
力強く見つめるその目に、太郎は小さく微笑んでいた。だが、その有無を言わさぬ顔を前に、降参の意志を告げていた。
「念のために、結界を張っておこう」
太郎の言葉と共に、部屋の四方にある灯が大きく揺らぐ。
「
ため息をつく太郎に、
「
「そうだな。だが、あれは元々長老様たちが嫌いだ。素直にいう事を聞かぬだろう」
「そうなのですか? あっ、でも……。そうですね」
何か思うところがあったのだろう。
それを見て、満足そうに頷く太郎。しかも、とても晴れやかな笑みで、
「俺も嫌いだからな、血は争えぬというだろう? だから人一倍、力を欲しておる。でも、俺が直接稽古をつけてやれぬからな、全て
嬉しそうな顔をして、小さく息を吐く太郎。その顔に、
「本当に、そうですね。
視線を落とす
「
「居るな?」
驚き、その背を支えようと
「これに控えておりますれば――」
それだけ告げて、女は太郎の指示を待っていた。
「長老様に預けてある小刀を持って参れ。『太郎の御神刀』と言えばよい」
「はっ!」
短くそう告げたあと、女は一瞬にして消えていた。
「九郎の中には鬼がおる。猫目一族がただの祭祀の一族ではなく、
太郎の言葉が終わっていないと察しているのだろう。
「だが、いつか逆に
「
「――太郎様。お話の所申し訳ございませぬ。長老様から
いつの間にか部屋の端で控える黒装束の女。よほど急ぎの用があるのだろう。その声は、話を遮ることの申し訳なさであふれていた。
「よい。長老様の指示だ。抜かるなよ。それと、
「はっ!」
しずしずと太郎の傍に近寄る黒装束の女。
その小刀を太郎に奉じるように差し出すと、次の瞬間には消えていた。
「この小刀はお前の
差し出される小刀を受け取る
ずしりとしたその重みを、両手でしっかりと受け止めていた。
「九郎はお前を、何が何でも守ろうとするだろう。俺がそう指示したからではない。自らの判断だ。今もさらなる力を欲しておる。むろん、自らの鬼を呼び覚ますことは間違いあるまい」
「鬼を……。それは鬼神化というものですか?」
「そうだ。ただ、その力のみ引き出しておるうちは問題ないが、身も心も鬼と化せば、元には戻らぬ。かつて、
「
「そうならぬかもしれぬ。だが、もしもそうなった時には、あれを救う手だてはない」
三度訪れた沈黙は、今度こそしっかりと腰を落ち着ける。
だが、それを退ける者がいた。
「その時は、
受け取った御神刀を固く握りしめ、
その瞳に、輝く決意の光を灯して。
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