結論 「なろうテンプレ」で人気を得ても「小説家」にはなれない
結論から申しますと、「なろうテンプレ」を書いて「小説家になろう」でトップランカーとなっても「小説家」にはなれないと思われます。
かなり極端な結論をいきなり提示してしまいました。これが極論であることは書いた私自身が自覚しております。
また、例外事項も多々あることは事実です。小説家として充分な力量があれば「なろうテンプレ」を書いて人気を得て書籍化の道筋を付けた上で、書籍化に際して「通常の小説」「通常のラノベ」として充分に鑑賞に耐える作品に改造することで「小説家」デビューを果たすことは可能でしょう。
あるいは、固定読者がついていて、その読者が書籍化した「なろうテンプレ」を買ってくれるのならば、作家として活動を続けることは可能かもしれません。
これには実は先行例があります。「ケータイ小説」です。
「ケータイ小説」もまた、従来の小説とは相当に違った内容の文章であり、「こんなものは小説ではない」と批判されました。しかし、特定の読者層には非常に支持され、一時は書店の棚にケータイ小説系の専用の棚が作られたほど売れました。
これは「なろうテンプレ」と非常に似た構造だと思われます。
ただ、違う点もあります。以前に読んだ書籍での分析ですが「ケータイ小説」を執筆した作者や、その支持層というのは「地方のマイルドヤンキー」だということでした。
それに対して「なろうテンプレ」の主要支持層は、私は「都市部のオタク」だと想定しています。インドア系でコミュニケーションが不得意で、ひとりでRPGを楽しんでいるようなオタクがターゲット層なのではないかと思われるのです。これは「なろうテンプレ」の要素の(6)の転生主人公の転生前の姿は、こういった都市部オタクとして描写されているものが多いからです。
実は、このために「なろうテンプレ」というのは、一見すると「従来型のライトノベル」と親和性が高いように見えてしまうのです。
そもそも「従来型のライトノベル」自体が、相当にコンピュータRPGの影響下にあります。
始原のライトノベルである神坂一『スレイヤーズ!』は、明らかにコンピューターPRG的な文脈の中で生まれた作品です。ただし『スレイヤーズ』では、むしろ短編『すぺしゃる』において、そのRPG的な要素をパロディとして盛り込んでおり、長編版においてはゲーム的な要素はそれほど強くはありませんでした。
その一方で、同じく始原のライトノベルである水野良『ロードス島戦記』の方は、コンピューターRPGではなく、その原型であるTRPGをベースにしていました。実は「モンスター退治をする冒険者」というのは『ロードス島戦記』や、それを元にしたTPRGなどで普及した概念になります。
これらと吉岡平『無責任艦長タイラー』のパロディ上等のコメディタッチと、秋津透『魔獣戦士ルナ・ヴァルガー』のお色気路線が組み合わさることによって、現代ラノベの原型が作られたのではないかと私は推測しています。
これら純粋なラノベのほかにベニー松山『隣り合わせの灰と青春』というゲーム『ウィザードリィ』を題材にした小説や、久美沙織による『ドラゴンクエスト』のノベライズなどのゲーム小説もありました。
「なろうテンプレ」の主要ターゲット層である都市部オタクの中には、これらのラノベやゲーム小説を最初から好んでいる層も一定量存在しています。
それら「ラノベが読める層」の場合は、地の文での説明や、途中でストレス展開が入ることにも慣れています。
しかし、「なろうテンプレ」を好む層の全体の中で言えば、やはり一部に過ぎないと考えられます。
ところが「なろうテンプレ」は外形的には「従来型のラノベ」と共通する要素が多いのです。
一見すると「ゲーム的なラノベ」を書けばいいように見えます。だから、「ラノベを書きたい」
ところが、それだと「なろうテンプレ」の主要ターゲット層のごく一部にしか好まれないのです。
当然です。求めているものが違うのですから。彼らが欲しているのは、あくまで「チート改造されたRPGを疑似体験できるサクサク進む物語」でしかないのですから。
そして、そうしたターゲット層の求める「なろうテンプレ」を書いて、それが書籍化されたとしましょう。
そんな内容の作品が「従来型のラノベ」が好きな層に届くと思いますか?
いや、一部は届くでしょう。コミック化されたり、アニメ化されたりしている作品もありますから。それらは、奇跡的なバランスで従来型ラノベとしても成立するだけの内容を兼ね備えていたということです。
ただ、そのアニメ化された作品には酷評されまくっていたりするものもあります。しかも、その酷評は「チート改造されたRPGを疑似体験できるサクサク進む物語」という構造そのものに対して行われています。ごく簡単に言えばこういうことです。「ご都合主義すぎる」「展開が一本調子」。
これはどうしようもないでしょう。「なろうテンプレ」とは、そもそもがそういう作品なのですから。
だから、仮に「なろうテンプレ」に合わせた作品を書いたとしても、それがそのまま作家として、小説家として活躍できる切符になるかというと、決してそうではないと思われるのです。
今まで「なろうテンプレ」で書籍化されて成功している作家というのは、むしろ「従来型ラノベ」もきちんと書ける人が、うまく「なろうテンプレ」に合わせたということではないかと思われます。実際、元からラノベ作家としてデビューしていた人が「小説家になろう」で新作を発表して書籍化されるというような例も見られるようになってきました。
その一方で、単に「なろうテンプレ」を書いただけの作品は、書籍化したとしても一巻や二巻で打ち切りになったりするものも多々あります。そして、そういった作品を書いた作家が二作目を出せる可能性は低くなっています。
こう考えると「なろうテンプレ」というのは、つまるところ「チート改造されたRPGをサクサク楽しみたい層」にしか向いていない作品でしかなく、それは出版界やラノベ界から見ても狭い市場でしかないということではないかと思えるのです。
だから「小説家になろう」というサイト自体が、
何しろ、人気のある「なろうテンプレ」の一部には、それこそ「小説としてはド下手」でしかないものが存在するからです。それを読んで「これなら自分の方が上手い小説が書ける」と思った
ところが、実際にはかなり特化した「なろうテンプレ」でないと人気を得ることは難しいという現実があります。最近読んだ「2か月で書籍化した」という内容のエッセイでは、かなり丹念にマーケティングを行って、大量のトライ&エラーを実行して成功に結びつけていました。「なろうテンプレ」で成功するには、そこまでする必要があるわけです。
しかも、それで書籍化したとしても、今度は「なろうテンプレ」のターゲット層の好みは一般書籍や一般ラノベのターゲット層の好みとは異なるという現実が待ち受けています。
ここまで考えたところで、私は自分で「なろうテンプレ」を書くという路線は完全に放棄するという結論に達さざるを得ませんでした。私には丹念なマーケティングとトライ&エラーで「なろうテンプレ」を成功に導けるだけの調査力や速筆力は無いからです。
同時に「小説家になろう」の総合ランキングでトップを狙うことも放棄しました。「なろうテンプレ」の主要ターゲット層は「小説が好き」な層ではないと仮定できたからです。この「なろうテンプレ」のターゲット層が多くの読者を占めている現状で、「小説家になろう」の総合ランキングのトップを一般的な小説やラノベで狙うのは現実的には不可能だからです。
その一方で、過疎ジャンルである「SF」や「推理」などは、むしろ従来型の小説が好きな層が読んでいるのではないかと思われます。これらのジャンルの場合は、ジャンル別日間ランキングでトップを目指すのは、そんなに難しいことではありません。
本当に「小説家」になりたいのなら、「なろうテンプレ」に占拠されている総合ランキング上位を目指して、そこからの書籍化を狙うのではなく、こうした「従来型の小説」が好きな層を狙って作品を書き続け、そこで得られた交流や感想などから自分の作家としての腕を磨き、公募や読者選考が無いコンテストなどに応募するという正統的な方法を狙う方が正しいのではないかと私には思えます。
以上が、私が「なろうテンプレ」に対して行った考察から得た結論になります。これが絶対的に正しいとは、私自身が思っておりません。しかし、以前の私と同じように「なろうテンプレ」に無駄な戦いを挑もうとしている作家志望の皆様に無駄な時間を使わせずに済んだり、私と同じように「なろうテンプレ」と苦闘したあげくに敗れ去った作家志望の皆様の再起の一助になればと思って執筆いたしました。
以上、ご精読いただきまして、誠にありがとうございました。
なろうテンプレの正体 結城藍人 @aito-yu-ki
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